
為替取引とは
2025年3月7日に政府は資金決済に関する法律(以下「資金決済法」という)の改正案を国会に提出した。資金決済法は、いわゆるフィンテック(ICTを活用した金融サービス)を規制する法律である。改正案は2025年1月22日公表の金融審議会資金決済制度等に関するワーキンググループ報告(以下、「2025報告」)に基づく。
そもそも現金を用いないで決済を行う(たとえば個人が他地域の個人へ銀行経由で送金)は、為替取引※1と定義され、銀行の本来業務である(銀行法2条2項2号)。
ただ、これまでもコンビニ窓口での電気代支払であったり、クレジットカードによる支払であったり、現金を直接相手方に交付しないという意味で、為替取引に該当しそうな取引が従来からあった。しかし、これらは収納代行※2(前者)や代物返済※3(後者)といった、法的には為替取引とは異なる性格を有する(=すなわち銀行業ではない)ものとされてきた。ちなみにクレジットカードの分割払いは長期の後払い(いわば借金)の性格を有するため、割賦販売法という別途の法律で規制されている。
近年、フィンテックによる資金決済機能が次々登場・普及したが、これらは銀行の為替取引と機能的には変わらないものもあり、どうしても為替取引と解さざるをえない取引があった。そのため、2009年に資金決済法が施行され、各種のフィンテックを活用した支払方法が銀行法の特例等として認められるようになった。
※1 判例では「『為替取引を行うこと』とは、顧客から、隔地者間で直接現金を輸送せずに資金を移動する仕組みを利用して資金を移動することを内容とする依頼を受けて、これを引き受けること、又はこれを引き受けて遂行することをいう」(最決平成13年3月12日刑集55巻2号97頁)とされる。
※2 収納代行は電力会社などの持つ債権の回収を代行しているのものである。
※3 代物弁済とは、利用者の銀行預金債権を代金に充当するといったものである。
為替取引に関連する事業
ここで資金決済法以外の法律が銀行以外で為替取引に関連する業務を営める事業者を整理しておく[図表1]。
銀行法は(1)銀行代理業者(銀行法2条15項、52条の36)、(2)電子決済等代行業者(銀行法2条22項、52条の61の2)を認めている※4。
このうち(1)の銀行代理業は、顧客からの預金の受入れや為替取引契約の締結につき銀行の代理・媒介を行う営業をいう(銀行法2条14項)。野村証券やKDDIが登録を受けている。
また(2)の電子決済等代行業は、顧客からの委託に基づいて預金口座からの送金指示や口座内容の照会を行う営業である。マネーフォワードやLineペイなどが登録を受けている。なお、ここでAPI(Application Programming Interface)接続とは、銀行と電子決済等代行業者の両社のシステムを直接つなげてデータのやり取りをすることをいう。
これらは銀行業の代理・媒介、あるいは銀行との提携のもとで決済業務の一部を代行するものであり、為替取引を行うのはあくまで銀行であるとの位置づけである。これらは今回の法改正には関係がないので、詳細な説明は避ける。
さらに金融サービス仲介業者がある(金融サービスの提供及び利用環境の整備等に関する法律(以下「金サ法」)11条)。金融サービス仲介業者は内閣総理大臣の登録を受ける(金サ法12条)ことで、預金等媒介業務(預金の受け入れの媒介、資金貸付契約の媒介、為替取引契約の媒介)を行うことができる(金サ法11条2項)。これも銀行の業務を媒介するだけ※5なので、今回の対象の範囲外である。
※4 このほか銀行法で定められているのは、銀行の依頼を受けて口座間で資金を移動させ銀行預金の増減を行うことを受託する電子決済等取扱業者(銀行法2条18項、52条の60の3)が定められている。現在、関東財務局管内で電子決済等取扱業者の登録を受けているのはSBI VCトレード株式会社のみである。
※5 金融サービス仲介業者として想定されているのは、ネット上で金融ビジネスを幅広く展開する業者である。銀行業務の媒介とあわせて、有価証券等仲介業務や保険媒介業務などの媒介をすることもできる。