電子マネーや暗号資産、資金移動業といった通貨の代替機能を担う新たな決済手段が拡大するなか、金融の安全性や利用者保護の枠組みも大きく変化しています。本稿では、ニッセイ基礎研究所の松澤登氏が、資金決済法改正の要点と背景や、デジタル通貨時代における制度設計の行方について詳しく分析、解説します。
資金決済法の改正案-デジタルマネーの流通促進と規制強化 (写真はイメージです/PIXTA)

資金移動業者破綻時の利用者資金返還の多様化

本改正を図示すると[図表7]の通りである。

 

[図表7]資金移動業者破綻時の利用者資金返還の多様化
[図表7]資金移動業者破綻時の利用者資金返還の多様化

 

(1) 改正の経緯・内容

上述(2の2)の通り、資金移動業者には財産の保全規定があり、未達債務(上記2の2参照)以上の額の履行保証金を供託等しなければならない。この供託等の手段として現状では、以下が認められている。
 

(1) 供託所への供託(現行法・改正法43条)
(2) 銀行等による履行保証金保全契約の締結(現行法・改正法44条)
(3)信託会社による履行保証金信託契約(現行法・改正法45条)

 

2025報告(p2)によると、(1)の供託所からの利用者への支払には最低170日かかるとされている。また(2)③の場合も供託所経由の返金となるため(現行法・改正法46条)、やはり同程度の日数がかかるとされている。

 

現在、労働者に対する給与を資金移動業者経由で支払う方法が認められており(労働基準法施行規則第7条の2第項3号)、資金移動業者が破綻した場合に、給与である資金を速やかに支払うことが求められている(同号ロ)。

 

そこで2025報告では既存の供託等の手続とは別の手続を3種類用意して、各資金移動業者の事業内容を踏まえて選択できるようにした。具体的には以下の通りである。
 

i)履行保証人債務引受契約(改正法45条の3) 事前に資金移動業者と保証機関23との間で債務引受契約を締結した上で、資金移動業者の破綻時において、保証機関が資金移動業者の利用者に対する債務を引き受け、これを利用者に対して直接弁済するもの
ii)履行保証人保証契約(改正法45条の4)
事前に資金移動業者の利用者と保証機関との間で保証契約を締結した上で、資金移動業者の破綻時において、保証機関が利用者に対して直接保証債務を弁済するもの
iii)履行保証金弁済信託契約(改正法45条の5)
事前に資金移動業者が受託者との間で利用者を受益者とする信託契約を締結した上で、資金移動業者の破綻時において、受託者が信託財産を原資として受益者代理人に弁済し、これを受けた受益者代理人が利用者に対して直接弁済するもの

 

これらの手段を用いると、利用者には保証機関から数日程度で返還がなされるようになるとされている。

 

※23 保証機関には健全性基準を満たす銀行等が想定されている(2025報告(p4))。

 

(2) 検討

顧客から預託を受けた資金の保全は資金決済法のみならず、銀行法、金商法、保険業法でも重要課題である。各業態における破綻防止については、銀行に対する自己資本規制(銀行法14条の2)、金融商品取引業者(証券会社)の分別管理(金商法43条の2)・自己資本規制比率(金商法46条の6)、保険会社の責任準備金規制(保険業法116条)・ソルベンシー・マージン比率(同法130条)などがある。

 

また、それぞれにセーフティーネットがあり、銀行には預金保護機構、金融商品取引業者(証券会社)には投資者保護基金、保険会社には保険契約者保護機構がある。いずれも金融機関破綻時に利用者の資金・資産を守るものである。

 

なお、日本においては、金融機関破綻の際、そのまま清算することには否定的であり、一般的には破綻金融機関をいずれかの金融機関へ引受けさせ、あるいは民事再生などして預金契約や保険契約を継続させることを眼目にしている。これはたとえば保険であれば、保険契約が破綻により終了してしまえば、被保険者の健康状態により、再加入ができなくなるなどの事情による。

 

他方、資金決済法では、これらとは異なり、上述の通り事業者が預かった資産相当額につき供託等するよう求める(資金移動業につき現行法43条~45条)※24

 

つまり預託された資金がそのまま保全されるような仕組みとなっている。また、セーフティーネットは存在しない。これは資金移動業者が為替取引の機能しか持たないので、利用者視点から見ても経営再建により存続させる意味合いに乏しく、何らかの理由で経営悪化した場合には破綻させ、資金全額を払い戻すことが最優先となるからであろう。

 

資金移動業者は給与支払いの受け皿の機能も有するようになった。すなわち、生活資金を一時的にせよ預かっている※25。資金決済法では上述の通り、資金移動業者に即座に支払える方法を追加したのは、生活費用の払い戻しに半年近くかかる現状の改善を図るものとして合理的なものと考える。

 

※24 なお、前払式支払手段は預かり金額の半額となっている(現行法・改正法14条)。これは前払式支払手段の発行者には小規模事業者が多く、全額預託では事実上の発行禁止となってしまうからであろう。
※25 従来、貸付を行わず、預金を受入れ為替業務のみを行うナローバンクと呼ばれた概念があったが、資金移動業者はそれと似た機能を有する。