電子マネーや暗号資産、資金移動業といった通貨の代替機能を担う新たな決済手段が拡大するなか、金融の安全性や利用者保護の枠組みも大きく変化しています。本稿では、ニッセイ基礎研究所の松澤登氏が、資金決済法改正の要点と背景や、デジタル通貨時代における制度設計の行方について詳しく分析、解説します。
資金決済法の改正案-デジタルマネーの流通促進と規制強化 (写真はイメージです/PIXTA)

資金決済法改正の概要

以下では、今回の改正法案の内容について解説を行う。資金決済法の表記については、現行の資金決済法を「現行法」、改正案である資金決済法を「改正法」と呼ぶこととする。

 

暗号資産交換業者に対する資産の国内保有命令の導入

本改正を図示すると [図表3]の通りである。

 

[図表3]資産の国内保有命令の導入
[図表3]資産の国内保有命令の導入

 

(1) 改正の経緯・内容

改正の契機として、2022年に米暗号通貨取引所大手FTXトレーディング社が連邦破産法11条(日本の民事再生法に相当)手続を申請し、破綻したことにある。この際、米国の破綻手続きに日本のFTX Japan株式会社が含まれていたことから、金融庁は同社に対して金融商品取引法(以下、「金商法」)56条の3に基づく資産の国内保有命令を発出し、同社資産の国外流出を防止することができた※16。これは同社が暗号資産現物の交換業のほかに、暗号資産のデリバティブ業務を行っていた(金商法2条24項、施行令1条の17)ことから、金商法の適用が可能であったものである。

 

そこで本改正では、デリバティブ業務を行っていない暗号資産交換業者に対しても、「内閣総理大臣は公益又は利用者の保護のため必要かつ適当であると認める場合」には、その資産のうち政令で定める部分を国内に保有することを命ずることができる旨の条文を新設した(63条16の2)。また電子決済手段等取引業者にも同様の条文を新設した(63条の21の2)。

 

※16 金融庁説明資料 https://www.fsa.go.jp/common/diet/217/02/setsumei.pdf p2参照。

 

(2) 検討

外国で暗号資産交換業者の親会社が破綻した場合に、日本の子会社の資産がどう取り扱われるかは当該外国の法制度や過去の判例などにより異なるものと考えられる。子会社資産を外国親会社の債権者に破産時の配当財源として徴収することは十分考えられるし、その際に子会社の債権者(顧客)が保護されるとは限らない。このような規定改正は当然のものと言えるだろう。

 

ただ、疑問点として暗号資産交換業者のサーバが海外にある場合、資産の国内保有命令はどのような意味を有するのかというものがある。物理的なサーバが海外にあることをもって暗号資産であるデータが海外にあるというのか、あるいは管理者である暗号資産交換業者が国内からアカウントを操作できることをもって国内にあると言えるのか、筆者の調査の限りにおいて判明しなかった※17。保険業法では外国保険会社等の資産は国内に保有することとされている(保険業法197条)。この規定により責任準備金等に相当額を国内に保有するものとされている。これに類する規定の導入の是非はどうか、議論の余地はあると考えられる。

 

※17 なお、暗号資産交換業者に対して利用者の暗号資産を国内で管理することは求められていない(2025報告書P13の注49)