電子マネーや暗号資産、資金移動業といった通貨の代替機能を担う新たな決済手段が拡大するなか、金融の安全性や利用者保護の枠組みも大きく変化しています。本稿では、ニッセイ基礎研究所の松澤登氏が、資金決済法改正の要点と背景や、デジタル通貨時代における制度設計の行方について詳しく分析、解説します。
資金決済法の改正案-デジタルマネーの流通促進と規制強化 (写真はイメージです/PIXTA)

電子決済手段・暗号資産サービス仲介業の導入

本改正を図示すると[図表5]の通りである。

 

[図表5]電子決済手段・暗号資産サービス仲介業の導入
[図表5]電子決済手段・暗号資産サービス仲介業の導入

 

(1) 改正の経緯・内容

2025報告(p14)では、「ゲームアプリやアンホステッド・ウォレット※20等をウェブ上で提供する事業者が、利用者に対して暗号資産交換業者等を紹介するなど、暗号資産又は電子決済手段の売買又は交換に関与する場合、その態様によっては、当該関与は資金決済法上の『媒介』に該当する」としている。したがって現行法上「暗号資産等の売買等の媒介を業として行うためには、暗号資産交換業者等の登録」が必要である。そして、暗号資産交換業者となった場合、販売収益の移転防止に関する法律(以下、「犯収法」)における取引時確認や疑わしい取引の届出義務等が発生し、また上述の通り、資金決済法における利用者財産の保全に関する各種義務等を負うこととなる。

 

しかし、暗号資産等の売買の媒介にとどまる場合、売買の当事者ではないため、実際の売買を実施する暗号資産交換業者が犯収法上の義務等を実行し、財産要件を満たすとすれば、必ずしも媒介を行う事業者にそれらの義務を課す必要はないことになる。

 

以上をもとに、改正法では「電子決済手段・暗号資産サービス仲介業」を新設した(改正法2条18項、現行法2条18項以降は24項以降に後ずれ)。電子決済手段・暗号資産サービス仲介業とは、電子決済手段等取引業者からの委託を受けて電子決済手段の売買の媒介等を行うこと(同項1号)、または暗号資産交換業者から委託を受けて暗号資産の売買の媒介を行うこと(同項2号)のいずれかを業として行う者を指す。電子決済手段・暗号資産サービス仲介業者は内閣総理大臣による登録を受ける必要がある(改正法63条の22条の2)。

 

改正法は電子決済手段・暗号資産サービス仲介業者は電子決済手段等取引業者等から委託を受ける者として規定しており、いわゆる所属制を採用している(保険会社と保険募集人の関係と同様)。委託をした電子決済手段等取引業者等には電子決済手段・暗号資産サービス仲介業者が利用者に加えた損害を賠償する責任を負うこととされている。ただし、相当の注意をし、損害の発生の防止に努めたときは電子決済手段等取引業者等が免責される(改正法63条の22の14。この場合、仲介業者のみが責任を負う)。

 

このほか電子決済手段・暗号資産サービス仲介業者には利用者への情報提供義務(改正法63条の22の12)や金銭の預託の禁止(改正法63条の22の13)などの規制が課せられるが、上述の通り、財務要件や犯収法の規制をかけないこととされた。

 

※20 アンホステッド・ウォレットとは、暗号資産交換業者等がホスト(管理)していないウォレット(口座)を意味する。個人が自身でウォレットを管理するものや規制のない国の暗号資産交換業者が管理するものなどがある。この場合、個人が自身で秘密鍵を管理する。

 

(2) 検討

生命保険会社においては、生命保険契約につき生命保険募集人(生命保険会社から委託を受けて生命保険契約の媒介・代理を行う者。保険業法2条19項)に募集委託する。生命保険募集人は生命保険契約を媒介※21するだけであり、保険契約の当事者ではない。

 

しかし、内閣総理大臣(実務上は財務局等)への登録が求められており(保険業法276条)、顧客に対する生命保険契約に関する情報提供義務が生命保険募集人に課されている(保険業法294条)。これは生命保険募集にあたって、通常は生命保険会社と保険契約者の接点は生命保険募集人だけであり、生命保険募集人を行政の監督下に置き、情報提供義務を課すのが合理的と考えられているためであろう。

 

利用者と、電子決済手段等取引業者または暗号資産交換業者との間に直接のやり取りがなく、媒介者だけが利用者と接点があるのであれば、媒介業務を登録制とし、かつ情報提供義務を課すのは、生命保険募集人の事例と比較しても自然のことと思われる。

 

※21 損害保険募集人は損害保険契約締結の代理をすることがある。生命保険契約は法律上代理もできることになっているが、実務では媒介にとどまる。