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サインアップボーナスが招くトラブル
問題の本質は、お金の流れが複雑化し、組織内の連携や秘密保持が十分でないことです。
一般的に採用というのは人事部が窓口になります。サインアップボーナスも主に採用の責任者がコーディネイトしますが、人事部と経理部が一緒になって連携している企業もあれば、まったく別という企業もあります。
サインアップボーナスのような特殊なお金は、人事部だけで扱えるものではありません。秘密裡に処理するのが難しいので、多くの場合は経理部にも話が伝わります。ですから、このお金を内々に処理するのか公にするのか明確にしなくてはなりません。情報が漏れた場合、実務に従事する社員から「うちの会社で、このようなサインアップボーナスを払うらしいよ」と話が広まってしまうリスクもあります。
そうならないよう、秘密保持に関しても注意を払わなければなりませんが、目の前の特別な人材を招くのに一生懸命であるがゆえに、社内で噂が広まってしまうようなこともあります。そのため、企業は他の部門にこの内容を知られないように処理をしていることが多いようです。
また、最近このような事例もありました。ある企業では、どうしても迎え入れたい人材がいたため、サインアップボーナスを支給して招きたいと考えていました。しかし、こうした金銭の使い方は「今回限り」にしたいという強い意向がありました。その理由は、社内の事情により、こうした対応を行っている事実が外部に漏れることを、どうしても避けたいたからだといいます。
そこで、こういう打診をされました。「サインアップボーナスで払う金額をTESCOさん(つまり私の会社)のエージェントフィーに上乗せして払うから、TESCOさんから本人に払ってくれないか」という依頼です。
これは三方良しでうまく収まって見えますが、大きな落とし穴があります。表面的には短期間で露見されにくいかもしれませんが、この会社がエージェントに払ったお金と本人に行ったお金は勘定科目が違います。
具体的にいえば、この会社はTESCOに上乗せして払いますが、TESCOが本人に払う時には本人の所得になります。つまり、一時金・ボーナスになりますから、源泉徴収税を引いた額を振り込むことになります。本人が正社員として勤めている会社以外からの一時金ですから、翌年に確定申告が必要になります。
確定申告が必要ということは、住民税が特別徴収ではなく普通徴収ということになります。この会社が副業を許可していれば問題ないかもしれませんが、仮に副業禁止の会社だと、この人だけがなぜ住民税で異なる処理をしなくてはならないのかと、遅かれ早かれ別の部門に分かってしまいます。
最悪のケースでは、1年後にサインアップボーナスの事実が明るみに出て、社内で責任の所在が問われる事態に発展することもあるのです。