「サインアップボーナス」という言葉をご存知でしょうか? 入社前のいわゆる「お祝い金」「準備金」です。最近、人材獲得のために実施する企業が増えはじめたことから、以前より聞く機会も増えている言葉かもしれません。しかし、これを実施することで、後々トラブルに発展してしまうケースも少なくないようです。今回は、サーチ・ビジネス(ヘッドハンティング)のパイオニアである東京エグゼクティブ・サーチ(TESCO)代表取締役社長の福留拓人氏が、具体的な事例紹介を通して、サインアップボーナス実施時の注意点について詳しく解説します。
“人材争奪戦”の切り札? 入社前に数百万円のお祝い金…「サインアップボーナス」の実態と落とし穴【人材のプロが助言】 (※写真はイメージです/PIXTA)

サインアップボーナスの注意点

「サインアップボーナス」と言葉は、以前に比べると聞く機会が増えたかもしれませんが、まだあまり一般的ではないと思います。

 

サインアップボーナスとは、ヘッドハンティングなどでスカウトされた人材が入社する際に、企業が入社の承諾とお祝いの意味を込めて支給する、数百万円程度の臨時のボーナスです。

 

この制度には、歴史的にふたつの側面があります。ひとつは、栄転による支給です。たとえば、取締役をしていた人がスカウトされて代表取締役に就任したとします。この場合、ステータスが上がるので年収も大きく上昇することが多いのですが、入社までに身支度を整える意味を込めて、お祝い金として企業が支出することです。

 

実は、こうしたお祝い金は、以前は非課税で渡されていました。要するに、企業は税引き後のお金を使っていたのです。密室で茶封筒に入った現金をそっと渡すようなイメージといえばわかりやすいでしょう。もちろん領収証を必要としないお金でした。税務上は「アウト」ということになると思いますが、昔はこのような慣習がまかり通っていたわけです。

 

もうひとつは、企業側がどうしても迎え入れたい人材であるにもかかわらず、現状の評価制度との兼ね合いで、1年目の年収がダウンしてしまうケースです。初年度の収入が現職よりも下回ってしまう場合に、補填の意味でサインアップボーナスを払うことがありました。これは、2年目からは能力や実績が評価されて取り返せるだろうという想定に立っています。

 

最近ではこの制度がもう少しカジュアルに使われるようになり、また、人材不足でスカウティングも活発になってきたことで、エグゼクティブだけでなく若手の幹部候補でも、このサインアップボーナスが人材を引き寄せる意味で利用されています。

 

しかし、制度の広がりと共に、運用に慣れていない企業や個人が目立つようになり、トラブルになることも増えてきているようです。