2026年が明け、早くも四半期が過ぎようとしています。「採用市場は私たちの想定よりも早いスピードで変化していて、トレンドや構造そのものが書き換わりつつある」と語るのは、サーチ・ビジネス(ヘッドハンティング)の先駆者、東京エグゼクティブ・サーチ(TESCO)代表取締役社長・福留拓人氏。本記事では、具体的なエピソードをご紹介しながら、経営を担う“エグゼクティブ層”の採用の変化について考察していきます
優秀な人材は“転職活動すら必要ない”時代へ…応募を待つだけの企業に迫る「深刻な危機」【キャリアのプロが解説】 (※写真はイメージです/PIXTA)

減少する労働人口と経営を担える人材

まずは現在のスカウト・転職環境から整理していきましょう。いまや転職市場はAI全盛期。企業もエージェントも、AIを駆使してスカウトメールを大量送信しています。その結果、ターゲットである優秀層だけでなく、あらゆる層にスカウトメールが届くようになりました。流通量は当初の想定をはるかに超え、もはや求人メールは“迷惑メールの一種”として扱われるレベルに達しています。

 

誰もがメールを「開かない」「目に留めない」「読まない」。かつては、量産されるスカウトの中にも、その人の経歴を読み込んだカスタマイズ文面がありました。手間はかかっても、その分だけ返信率は上がったものです。しかし現在は、そもそもメール自体が見られない。迷惑フォルダに振り分けられれば、文章の個別性も意味を持ちません。“届かないスカウト”が大量生産されているのが、今の現実です。

 

スカウトでマッチングが厳しくなっている裏側に、もう一つの変化があります。それは、労働市場そのものの縮小です。

 

2025年の出生数は68万人。衝撃的な数字でした。生産年齢人口は確実に減少しています。そこに働き方改革が加わり、若手や中堅がハードワークの中で修羅場を経験する機会は減りました。良し悪しは別として、厳しい環境で鍛えられるプロセスは明らかに希薄になっています。

 

組織の「2・6・2の法則」で言えば、上位20%は、どの環境でも成果を出します。問題は、その下の60%の上位層。本来であれば、重要な経験を通じてボトムアップされ、経営人材へと育っていく層です。しかし、その育成構造が弱まっているのが実情です。

 

さらに、上位20%の人材も起業やフリーランスへ流れる傾向が強まり、企業に長く留まるケースは減っています。結果として、「経営を担える人材」の絶対数が不足していく構造が出来上がりつつあるのです。

優秀層は転職活動をする必要がない

では、その経営を担える貴重な人材は、今どう動いているのか。ここが“決定的な変化”です。優秀な人ほど、もはや自ら転職活動をしなくなっています。というのも、探さなくても声がかかるからです。

 

職務経歴書を用意して応募するのではなく、日常的にSNSで発信し、その存在が可視化される。そこに企業や関係者が自然に接触する。まだ転職を決めていなくても、声がかかる。案件の相談が届く。副業の打診が来る――。優秀層は「活動する側」から「探される側」へと立場が変わりました。

 

従来のように、企業と転職希望者という関係性でカジュアル面談を設定し、応募を待つスタイルは急速に価値を失いつつあります。企業が相手と日常的に接点を持っていなければ、獲得のチャンスそのものが生まれないのです。

トップ層の採用は「数年単位の関係構築」が必要な時代へ

これからは、トップ層と企業が数年単位でつながる時代になっていきます。いきなり正社員採用ではなく、副業やプロジェクト単位での接点を持ち、実績を積み重ねる。その中で信頼関係を築き、自社のタレントプールに組み込んでいく。いわば「長期的な人材投資」が必要です。

 

これは簡単な話ではありません。仕組みづくりには莫大な時間とコストがかかります。内製化するにせよ、外部委託するにせよ、相応の投資が必要です。それができない企業にとって、トップ層の獲得はますます難しくなるでしょう。

 

優秀層は、企業側が待っていても応募してきません。スカウトを送っても読まれません。採用は「募集」から「関係構築」へと完全に軸足を移しつつあります。この変化を前提に、数年単位の視野で仕組みをつくれるかどうか。人材側からすると、優秀な実績に加えて積極的な人間関係の構築こそが、よりよい環境やポジションに移っていくことの近道になります。


優秀層の採用は、もはや短期的な施策では戦えません。生き残りをかけて、本気で投資し、体制を整える覚悟があるか。今からの時代に各企業が問われているのは、そこなのだと感じています。

 

 

福留 拓人
東京エグゼクティブ・サーチ株式会社
代表取締役社長