企業側は横領等の不正行為が発生するリスクを極力減らしたいと考えています。そのため、ごくまれではありますが、人材採用の際にお金周りの調査が行われることもあります。今回は、サーチ・ビジネス(ヘッドハンティング)のパイオニアである東京エグゼクティブ・サーチ(TESCO)代表取締役社長の福留拓人氏が、「金融調査」と「横領調査」について解説します。
実績、能力、人格が二重丸でも採用できません…横領などの不正リスクを減らす「金融調査」と「横領調査」の実態【人材のプロが解説】 (※写真はイメージです/PIXTA)

企業が人材を採用する前に「金融調査」を希望する理由

ごくまれに、当社のクライアント企業から最終レファレンスのチェックで派生した金融調査を依頼されることがあります。たとえばCFO(最高財務責任者)および経理財務の責任者がスカウティングによって中途入社する場合、いうまでもなく会社のお金を動かせるポジションに就きますから、基本的な調査が必要になります。

 

過去の経験、実績、能力、人格など面接で推し量れる要素が充分であったとしても、もしその人物がお金にルーズだったら、横領等の発生リスクを高めることになります。それを警戒する企業が、極秘裏に私どもに調査を依頼してこられることがあります。

 

つまり、ノンバンクなどで多重債務に陥っていないかという懸念があるのです。ある機関で統計が出ているのですが、多重債務、異性問題、ギャンブルなど私生活に実際の問題がある場合、残念ながら業務で問題を起こす可能性が高まり、不正に直結する問題の発生要因となることがわかっています。それは企業として致命的なマイナスとなります。

 

特に、金庫番による横領の話題などがよく出てきますが、数年後の内部調査で発覚することはあるものの、その瞬間を見抜くために仕事をしているわけではありません。不正発生の芽を摘むということであれば、借金問題、異性関係、賭けごとなどにリスクを抱えていないかどうか、あらかじめよく観察しておくべきです。

 

この点に厳しい企業では、ノンバンクからの借り入れ実績がある人の場合、実績、能力、人格が二重丸だったとしても、その時点で採用NGになる可能性があるでしょう。

 

次にポイントになるのは素行です。問題のある人物は、通常の私生活を超えたところにお金が流れるような振る舞いをしている場合があります。横領の可能性という意味では日常的な素行にも注目すべきで、何か違和感があればこれもリスクが高くなります。

 

これらの問題について、私どもは調査の手法を有しています。しかし、これは能力や人格の査定とは違う項目ですから、就職差別につながる可能性があります。職業安定法上の違法行為になる場合もあります。ですから、私どもはこれらの調査を実施しようとした企業を戒める立場にあります。

 

ただし、一般の従業員に該当しない取締役以上の役職、株主総会で選任を得た委任契約にあたる人に関しては、法解釈上、就職差別などで労働者の保護と違う領域に入る場合もありますから、そういう場合は慎重に本人の同意を取ったうえで調査するノウハウを発揮します。そういう面で、これらの調査の必要があれば、信頼できる人材コンサルタントに相談してみるとよいでしょう。