(※写真はイメージです/PIXTA)
猛烈な人手不足で引く手数多…第2新卒の転職傾向
いま、あらゆる業種・業態で深刻な人手不足が続いています。その中でも、年齢が若いほど転職先の選択肢が多く、チャンスに恵まれているのが現実です。これは職種を問わず、共通して見られる傾向といえるでしょう。
年齢を重ねるにつれて評価されるポイントは変化していきます。若いころとは違い、自分がこれまで培ってきた経験や実績を軸に、外部からの評価を得ていかなければ選択肢は徐々に狭まっていきます。これはキャリアの世界に限らないかもしれませんが、「歳をとる」というのはそういうことです。
若手人材の獲得にどの企業も躍起になりますが、特に求められているのが、いわゆる「第2新卒」と呼ばれる、学校を卒業して3年程度、ひとつの業種で基礎的なキャリアを積んだ皆さんです。一般的には20歳から27歳くらいの人を指します。
第2新卒の場合、一度は就職し、仕事を通じてさまざまな学びと経験を積んだことで、新しい可能性を探ったり、広い世界が見えてきたりするわけです。なかには多彩な経験をしてきた今と同じ職種で、よりよい待遇を求め、似たような会社への転職を指向する人もいます。
ですが、多くは「隣の芝生が青く見える」状態にあります。最初に勤務した会社で気になる点や不満を抱え、そこから抜け出したいという思いが強く、まったく異なる環境で活路を見いだしたいと考える人も少なくありません。こうした傾向は、第2新卒ならではの特徴といえるでしょう。
日本と欧米の違い
過去のコラムでも触れましたが、欧米では、経験を積み重ねることでキャリアを構築する文化が根付いています。一方、日本では「転職するならこれまでと同じでは意味がない」という考え方が強く、若手人材の選択肢の広がりに独自の個性があります。
もちろん、採用では個人の希望や価値観に応じた自然な選択が尊重されるべきです。制度や規約で画一化するのは、適切ではありません。個人の自由は就職の場でも尊重されるべきです。その一方で、企業にとっては、3年程度の経験を積んだ若手人材を迎え入れることは、経営効率の面からも非常に重要です。しかし現実には、第2新卒の候補者の多くが「まったく違う業種で働いてみたい」と考えており、企業が目の前にいる「来てほしい人」はみな外に流れたがっています。
ここで考えるべきポイントは、世の中のマッチングは「来てほしい人」と「行きたい人」が結びつくことで成立するということです。ところが、多くの企業では「行ってもいいな」と思う人を育成したり教育したりする余力を失っています。以前の企業文化では、志望意欲が高く熱意のある人材を極めて重視していました。しかし最近は少し発想を変える時期に来ています。
たとえ多くの若手が他所に行きたいと考えていても、企業側が自社に来てもらう環境や処遇を整理整頓し、魅力的な条件を提示すれば、未経験者を育成するよりも早く成果を上げられる可能性があります。この考え方に注目する企業はまだ少ないものの、徐々に増えてきている印象です。
「安い賃金で使う」という発想を捨てる
欧米では、同じ経験を持つ人材を類似した仕事に就かせることで、短期間で結果を出すことが常識となっています。ただし仕事の選択肢は狭まり、報酬は以前より上げる必要があります。若手人材を「安い賃金で使う」という発想は通用せず、同じキャリアを持つ人材には、前年対比20〜25%の給与アップなど、待遇の向上を示しています。この「キャリアに見合った対価」を明確に伝えられる企業が、若手人材の採用市場で主導権を握ることができるのです。
多くの日本企業では「どうせ選んでもらえない」と考え、最重要ポイントを断念して二番手以降の導入策に頼りがちです。しかし単純明快に「この人に来てもらえば成果が出る。では選んでもらうにはどうするか」と考えれば、まだまだ努力の余地があるのです。
まさにプロスポーツのFA制度と同じ構図で、エースやベテランが移籍しても同じポジションで活躍するのと似ています。FA制度では、「他チームの自分への評価を知りたかった」という動機もあり、現状のチームから移籍することが前提ではありません。この点は若手の転職活動にも通じます。
企業は、どのように評価し、期待し、育成するかを考えたうえで、適切な報酬を支払う努力を惜しまないことが、優秀な人材の採用につながります。手間はかかりますが、この努力を払える企業こそ、あきらめていた人材に手が届くのです。
福留 拓人
東京エグゼクティブ・サーチ株式会社
代表取締役社長