近い将来、急速に進化する人工知能(AI)が、人間の仕事を奪うのではないかと危惧されています。しかし、AIでは代替できない職種も多く、そうした分野では深刻な人手不足が続いています。今回は、サーチ・ビジネス(ヘッドハンティング)の先駆者である東京エグゼクティブ・サーチ(TESCO)代表取締役社長・福留拓人氏に、エッセンシャルワーカー(生活必須職従事者)の人材需要の高騰とその現状について解説していただきます。
AIでは代替できない…人口減少と高齢化で深刻化する「エッセンシャルワーカー不足」の危機 (※写真はイメージです/PIXTA)

エッセンシャルワーカー不足の現状

これまで人材紹介サービスは、法令で紹介を禁止される一部の職種を除き、その歴史においてさまざまな職種を取り扱ってきました。一般には経営管理職のイメージが強いかと思いますが、実際は必ずしもホワイトカラーのみというわけではありません。ひと昔前は、調理師や栄養士などの飲食関係、珍しいところではファッションモデルなど、多種多彩な職種と接点があったのです。

 

慢性的な人手不足である看護師などは、現在も活況の市場です。人材紹介サービスは、専門資格が必要であったり、採用自体が限定的であったり、もしくは該当する人員の数が決められている等々、課題のある職種と相性よく発展してきた歴史があります。

 

ところが、この1~2年は急速に新しい現象が見受けられるようになりました。AIで代替できない職種、つまり人間の従事または管理監督が必要な「人が離れられない職種」において、急速に人不足が進み、需要が高騰しているのです。日々の物流を支えるトラックドライバー、公共交通のバスやタクシーの運転手、危険と隣り合わせで作業する建設作業員などは、現状では代替が難しい職種です。

 

ひと昔前までは、今挙げたような職種における人手不足の事態を、一般の方はあまり深刻に感じていなかったかもしれません。現在、それらの職業の屋台骨を支えていた多くの方が年齢を重ね、第一線を退いていく……。少子高齢社会の猛烈な進行のなかで、そのような現状もまた加速し続けているのです。

AIでは代替できない労働者の存在

かつての勢いがなくなったとはいえ、いまでも世界を見渡せば、日本は成熟した先進国であり、経済大国であることは疑う余地がありません。そして、より待遇がよく、より環境が整った、快適な職場を求める傾向が強くなることは、先進国共通の現象です。

 

アメリカでは、移民に関するさまざまな問題が、人々の間で大きな分断となって巻き起こっています。しかし、ひとつ確実に言えることは、すでにアメリカという国は、厳しい環境の職場に積極的に飛び込むごく少数の自国民だけでは、人不足を埋めることができないということです。

 

現状、若い世代の減少を食い止められないという現実にあるアメリカにおいて、自国の若者の間で人気のない厳しい仕事を、数多くの移民が引き受けているという事実は、決して無視できるものではありません。彼らの存在は、アメリカの人口減少を食い止め、経済成長を支えるひとつの要因ともなっています。

 

一方、日本はどうでしょうか。例えば10~15年前と比べると、コンビニエンスストアで外国人スタッフを見かけることがとても多くなってきています。今日の日本も、まさにアメリカと同じ状況に近づいているのです。

 

コンビニに限ったことではありません。これがタクシードライバーであれば、二種免許を獲得した人材が必要です。もちろん、いずれはテクノロジーの進歩によって画期的な環境の変化が訪れるかもしれません。しかし、今日においてタクシードライバーの仕事は、AIの自動運転では代替が利きません。そこには強烈な「不足感」があるはずです。

 

現在、エッセンシャルワーカーの採用のため、企業が人材紹介のエージェントに高い報酬を払い、採用の活路を求めるという事態が急速に増加しています。大手の人材サービス会社でも、これからの中期的な事業の成長の肝として、エッセンシャルワーカーの市場開拓を大々的に掲げるようになりました。

 

これらの職種が深刻な人不足に陥るであろうことは10年以上前から言われてきたことですが、ここまで加速度的な市場変化を予想されてはいなかったように思います。エッセンシャルワーカーの採用問題は、現代社会における予測困難な変化を映し出す象徴的な事象のひとつと言えるでしょう。

 

 

福留 拓人
東京エグゼクティブ・サーチ株式会社
代表取締役社長