駅から遠い「イマイチな土地」にあることが多い
ここからは、少し住宅の変化球について考えていきましょう。クセ球を投げれば悪魔の魔の手から逃げられると思ったら甘すぎです。
最近よく聞くのが「コーポラティブハウス」というものです。2000年ごろから流行り始めたのですが、知っているでしょうか。
コーポラティブハウスとは、気の合う人同士が集まって(たいていはいわゆる「意識高い系(※1)(笑)」)組合を結成し、その組合が事業主になって集合住宅を建てるというものです。土地の取得、建築家や施工業者との打ち合わせなど、通常はデベロッパーに任せることを、将来の住民組合がすべてやります。
(※1)意識高い系元々はネットスラング(ネット上で使われる俗語)。明確な定義はないが、「小難しいカタカナビジネス用語を多用する」「ビジネス書を読み漁る」「自分の忙しさや努力をさりげなく自慢する」などの行為を日常的に行っている人が当てはまる。
自分の住む理想の家を自由に設計できるといううたい文句で、一時かなり流行りました。コーポラティブハウス専門の建設会社まであるぐらいです。
[図表]コーポラティブハウスの仕組み
そんな会社のWebサイトを見ると、まるでブルーボトルコーヒー(※2)のような意識の高さが伝わってきます。WindowsのPCなんか持っている奴は出入り禁止! 朝飯はスムージーでも飲んでください、といった感じです。
(※2)アメリカ発のコーヒー生産販売企業。2015年2月に海外初の店舗として東京の清澄白河に「清澄白河ロースタリー&カフェ」をオープンさせた。こだわりの豆を使い、焙煎後48時間以内のものしか提供しないなど、独自のこだわりを持つ。
こうした物件ですが、大抵は駅から遠い、路地裏の中途半端な土地に多いといわれています。コーポラティブハウスのような小規模マンションは、タワーマンションが建つような一等地に作るとあまりにもスペース効率が悪いからです。
地主と建設会社としては、イマイチな土地にオシャレという要素を組み込むことで付加価値を付けて売れる。建設会社は建物代で儲けます。そして、住む人は自分のライフスタイル(笑)なるものを、家を通して実現するそうです。
一般人は「引いて」しまう過剰カスタマイズの家
さて、このコーポラティブハウス、いろいろな問題を抱えています。先ほど紹介した建設会社のホームページには絶対に書いてない問題点を指摘しましょう。
本連載をここまでお読みいただいた方ならすでにお気付きかと思います。極度にカスタマイズした家は、建築費が高く、転売価格が安い。これですよ。
コーポラティブハウスは集合住宅全体がカスタマイズの塊です。しかも、みんなで集まってこうしたものを建てる人は基本的に「意識高い系」です。
彼らには独自のこだわりがあるので、同じ意識高い系同士でも他人がカスタマイズした家は嫌なのです。まして、一般の人にとっては理解できない趣味でしょう。だからこそ、いざ売ろうとしてもなかなか高い値段がつかなくなるのです。
しかも、大量の同じ部品を使って建てられ、現場の設計や作業もマニュアル化されているマンションはある程度コストが抑えられるのに対して、コーポラティブハウスはカスタマイズの塊ですから、小規模なマンションの割にコストが高い。
しかし、高くつくからと妥協しまくった設計にすれば「意識高い系」のニーズには対応できません。建築段階でそのあたりをめぐって、仲良し意識高い系サークルに亀裂が入ったりすることもあるようです。
もちろん、転売価値をちゃんと考慮して、「転売に有利なコーポラティブハウス」を立てることは理論的には可能です。私を始め、勉強家の有志が集まってやるなら、それはそれで成立するでしょう。
しかし残念なことに、コーポラティブハウスに憧れてしまうような「意識高い系」の人々には、転売価値なんかよりも自己実現、おしゃれ重視の人が多数派です。結局、オーバーカスタマイズの中途半端な規模のマンションが、駅から遠い場所に建つだけです。2040年には空き家率が4割になろうとしているのに・・・。
もちろん、組合の人と仲たがいしようと、地震などの災害で家がぼろぼろになろうと、将来売るに売れないリスクがあろうと、とにかく自分が徹底的にこだわった家にどうしても住みたいというなら無理に止めることはしません。
しかし、そこまでの強いこだわりを持っていない人には、安易にコーポラティブハウスに手を出すのはお勧めできません。