経済的な状況が厳しかったり、単に手続きを忘れてしまったりなど、さまざまな理由で支払いが遅れてしまうことは誰にでも起こりえます。しかし、そのままにしておくと、後で大きな問題に発展する可能性があることをご存じでしょうか。本記事では、谷本さん(仮名)の事例とともに、年金の未納について、FP事務所MoneySmith代表の吉野裕一氏が解説します。※個人の特定を避けるため、事例の一部を改変しています。
ごめん父さん。俺のせいだ…年金月16万円、何の落ち度もない82歳父が容赦なく突然〈財産差し押さえ〉→原因は、54歳息子が無視した日本年金機構からの“赤い封筒の中身”【FPの助言】 (※写真はイメージです/PIXTA)

年金未納問題の背景…統計が示す深刻な現状

厚生労働省のデータによると、2023年度の国民年金未納率は約17%でとなっています。未納率の改善は進んでいるようですが、未納した場合、家庭の経済的リスクだけでなく、社会全体の年金財政にも影響をおよぼします。今回の谷本さん家族のケースでは、世帯主の口座が差し押さえられました。未納者本人が支払えない場合、世帯主や配偶者の資産にも差し押さえの対象となることがあります。「赤い封筒」の重要性を軽視してしまうと、今回のように差し押さえになることを考えておかなくてはいけません。

 

日本年金機構では、令和5年度の最終催告状送付件数が17万6,779件あり、督促状送付件数に至っているのは、10万2,238件。最終的に差押執行件数は、3万789件と督促状送付件数から3分の1以下であるものの、年間で3万件以上の差し押さえが実施されています。さらにこの強制徴収も厳格化されてくる傾向にもあるようです。

赤い封筒が届く前に

このような事態を防ぐには、早期の対応と計画的な資金管理が必要です。第一に、家族間で経済状況を共有し、未納や延滞があれば早めに相談することが重要です。年金保険料が支払えない状況であれば、全額免除や半額免除という救済制度もあります。今回のように「差押予告通知書」が届いた場合には、対応がなにもできなくなり、一括返済をしなければなりません。月の保険料額は、令和6年度では1万6,980円ですが、未納が長く続くことによって一括納付も難しくなるでしょう。

 

また年金制度は、自分の受け取る年金を現役時代に払っているのではなく、現役世代が支払った保険料を高齢者などの年金給付に充てる「賦課方式」が採られています。つまり、未納が多くなれば給付金にも影響していくことになります。さらに年金保険料を払わないと、自分自身の年金給付額が減少するかなくなることもあります。現役時代には、なにかしらの収入を得ながら、生活ができると考える人もいるかもしれません。しかし年齢を重ねると、現役時代の様に収入を得ることが難しくなることも考えられます。