遺言書を残すだけでは争いは防げない
相続が発生した際、被相続人の有効な遺言があった場合、その遺言に従って相続を行います。その際、最低限の相続分である遺留分が侵害されているなら、遺留分を主張することができます。
遺留分は法定相続分の2分の1。中田さん兄弟の父の相続の際、実家の評価額が3,000万円だとすると、遺産は総額6,000万円。そのうち半分は母、もう半分は子に分割。子は達也さん、和樹さん2人なので、1,500万円ずつもらうことができました。しかし遺言では和樹さんは遺産ゼロ。
――遺留分が侵害されている。(法定相続分の半分となる)750万円をよこせ!
とそのときに主張することができました。そう主張できるのは、遺留分が侵害された事実を知ったときから1年、または相続開始後、10年経過すると行使することができなくなります。和樹さんの場合、父が遺さなかった言葉をくみ取ったのでしょう、だいぶしこりは残りましたが、母の面倒をみるのは兄だから……と父の遺志を尊重。遺留分の侵害を主張できたにも関わらず、その思いはグッと抑えました。
どちらにせよ、相続ではお金はもちろん、いろいろな感情が絡み合うので面倒になりがち。だからこそ、相続を見据えて、遺す側は遺言書をきちんとつくっておきたいもの。遺言書はいくつかの種類がありますが、トラブル防止を考えるなら、2人以上の証人の立会いのもとで遺言の趣旨を公証人に述べて筆記、最終的に全員が署名押印して作成する「公正証書遺言」がベスト。ただし、公正証書遺言だからといって、その内容が適正かどうかは話は別。その内容を相続が発生してから初めて知った際、不平等感を覚えたり、納得がいかなかったり、ということもあるでしょう。本当に争族防止を考えるなら、作成した遺言の内容は、事前になぜそのような遺言を残すのかという想いも含めて相続人に伝えておくのがベストです。
[参考資料]
内閣府男女共同参画局『令和4年度 性別による無意識の思い込み (アンコンシャス・バイアス)に関する調査研究』