(※写真はイメージです/PIXTA)

※本稿は、チーフグローバルストラテジスト・白木久史氏(三井住友DSアセットマネジメント株式会社)による寄稿です。

 

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【目次】

1.日本株を押し上げる「親米・長期安定政権」

2.良好な日米関係が支える日本株高

3.石破ショックは2度来る?

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9月27日の自民党総裁選で石破氏が勝利した直後、為替は大きく円高に振れ、日経平均先物は急落しました。巷では「石破ショック」と呼ばれましたが、その背景には石破新総理の財政・金融政策への不安や、投資収益への課税を強化する「金融所得課税」に前向きな姿勢があったようです。足元では、現実路線へ大きく舵を切った発言が続いていることで、市場は落ち着きを取り戻してきています。とはいえ、今後の石破内閣の行く末を考えると、日本株にとって気がかりな点がないわけではありません。

1.日本株を押し上げる「親米・長期安定政権」

〈ご祝儀ゼロの新政権スタート〉

■自民党の裏金問題等が燻り続ける中発足した、石破新内閣の支持率が低迷しています。内閣発足直後の大手新聞社による世論調査では、石破内閣の支持率は(51%)にとどまり、岸田内閣(59%)や菅内閣(68%)を下回るだけでなく、現行方式での調査が始まった2002年以降で最低の数字となっています。

 

■これまでの日本の株式市場を振り返ると、時の政権と株価の間には特徴的な関係が見て取れます。それは、①安定した日米関係のもと、②長期安定政権が続くと株価は上がりやすい、という傾向です。

 

■戦後最長の2,821日の長期政権となった第2次安倍政権では、日経平均株価は約2.3倍に上昇しました。また、1,979日の長期政権となった小泉政権でも、不良債権問題で一時7,800円台まで下落していた日経平均は、任期満了時にはほぼ倍の15,500円台まで上昇しています。また、その他の政権を見ても、長期安定政権が日本株に追い風となる傾向が確認できます(図表1)。

 

[図表1]歴代内閣と株価騰落率

 

■低調なスタートとなった石破政権が長期政権となるかどうかは未だ不明です。とはいえ、一般に内閣支持率は政権発足直後にピークをつけることがほとんどなので、石破政権下の日本株に過度な期待は禁物かも知れません。

2.良好な日米関係が支える日本株高

■日本株にとって「長期安定政権」と同じくらい重要なのが、「安定した日米関係」です。米国は日本にとって最大の輸出先であると同時に、海外直接投資では最大の仕向け先でもあります。また、世界的に見ても極めて厳しい安全保障環境にあるとされる日本にとって、同盟関係にある米国との円滑な連携は国防を考える上で欠くことができません。そう考えると、「安定した日米関係」が日本株にとっても重要であることは、改めて言うまでもないでしょう。

 

〈石破政権下でギクシャクしかねない日米関係〉

■古今東西、世に戦(いくさ)の絶える時はありませんが、思わぬ味方の裏切りで勝敗を決することが少なくありません。天下分け目の関ケ原の合戦では、「莫大な領土を渡す」という裏取引で徳川についた小早川秀秋の裏切りにより、勝敗が一気に決したと言われています。

 

■こうした観点から現在の石破新内閣を見ると、今後の日米関係には一抹の不安が付きまといます。というのも、石破新総理は米政府関係者が難色を示しているとされる「日米地位協定の見直し」や「アジア版NATO(北大西洋条約機構、加盟国同士が集団防衛の義務を負う国際機構)の検討」に言及しているからです。国内問題の金融や税制についてであれば、前言撤回で事態を収拾することは可能かもしれません。しかし、こと外交や安全保障に関わる問題では、事はそう簡単には行かないでしょう。というのも、肝心な時に「裏切られるかもしれない」と思われてしまうと、安全保障の面で信頼に基づく協力関係を築くことは極めて難しくなるからです。

 

■石破新総理はこうした「日米地位協定の見直し」などについて、単に発言するだけでなく、ご丁寧にも米有力シンクタンクのハドソン研究所に寄稿までしています。米政府・軍関係者から見れば、「そういう人」と受け取られても仕方がないでしょう。

 

■日米関係がギクシャクした時期を振り返ると、日本株のパフォーマンスは芳しいものではありません。特に、2009年9月に発足した鳩山内閣に始まる旧民主党政権下では、同首相が「日米中は正三角形の関係(日米、日中関係は等距離、重要性も同じ)」と発言し、更に日米の懸案であった沖縄県の普天間基地の移転について、事前調整なしに「最低でも県外」と発言し、日米関係はこじれにこじれました(図表2)。

 

[図表2]旧民主党政権下の日米株

 

■旧民主党時代に日本株のパフォーマンスが低迷した背景には、リーマンショック後の不景気や東日本大震災などがあったことは間違いないでしょう。とはいえ、海外の株式が大きく切り返す中でも日本株が大きく出遅れたのは、日米関係の悪化による地政学リスクの高まりや、通商問題での米政府による意趣返し・意地悪があった可能性は否定できないでしょう。こうして考えると、米政府に近いとされる清和会(旧安倍派)の主要メンバーを党公認から外し、返す刀で日米安保に切りつける石破新総理について、苦々しく感じている米政府関係者は少なくないのではないでしょうか。

3.石破ショックは2度来る?

■国内政治が発火点となり再び市場が動揺する「第2の石破ショック」が来るとしたら、どんな仮説・シナリオが想定されるのでしょうか。まず第一に挙げられるのが、10月27日投開票の衆議院選挙です。一部では自公連立政権の過半数割れの可能性がささやかれていますが、与党連立政権の過半数割れが現実のものとなった場合、政局は流動化し、市場は一時的にリスクオフに傾く可能性があります。特に、日本政治への関心が高い海外投資家は売りに回る可能性があるため、注意が必要でしょう。

 

■また、仮に衆院選を乗り切ったとしても、来年6~7月には参議院選挙があります。過去の経験則が示すように、時間の経過とともに内閣支持率の低下が続くとすれば、石破政権は参院選前にピンチに陥る可能性が高そうです。2001年4月発足の小泉内閣以降、政権発足後9ヵ月間の内閣支持率の変動幅は平均で▲25.0%、中央値で▲27.5%の下落でした。また、小泉、安倍第二次、岸田の在任期間が1,000日を超える長期政権を除くと、支持率の下落幅は平均で同▲31.6%、中央値で▲28.0%となっています(図表3)。こうした経験則から来年の参院選前の内閣支持率は、20~25%程度まで下がっていてもおかしくないでしょう。

 

[図表3]発足後9ヵ月の内閣支持率の推移

 

〈青木の法則が警告する政局リスク〉

■石破内閣の支持率が20~25%まで下落した場合、政権交代のリスクが高まります。いわゆる「青木の法則(青木率、自民党元参院幹事長の青木幹雄氏が提唱した経験則、内閣支持率と与党支持率の合計が60%を下回ると危険水域、50%を下回ると政権が倒れるという法則)」に照らせば、自民党の支持率が足元の約3割を維持できたとしても、内閣と自民党の支持率の合計である「青木率」は危険水域である60%を大きく下回り、政権が転覆するとされる50%前後まで低下する計算になります。仮に、こうしたシナリオが現実のものとなった場合、政治が機能不全に陥ることへの懸念と、自民党内で「刷新感」のある新しいリーダーが選ばれることへの期待が交錯して、日本株は大きく揺れ動くこととになりそうです。

 

〈まとめに〉

日本株と政治の関係を振り返ると、安定した日米関係のもとで長期安定政権が続くことが好ましいと言えそうです。このため、支持率が低く、米国が難色を示しているとされる日米地位協定などの見直しに前向きな石破内閣は、株式市場にとってリスクとなる可能性があります。特に、来年夏の参院選を前に政局リスクが高まる可能性があるため、投資家としては注意したいところです。

 

(2024年10月18日)

 

※当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『石破ショックは「2度」来る?【解説:三井住友DSアセットマネジメント・チーフグローバルストラテジスト】』を参照)。

 

白木 久史

三井住友DSアセットマネジメント株式会社

チーフグローバルストラテジスト

 

 

【ご注意】
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