(※写真はイメージです/PIXTA)

本稿は、チーフグローバルストラテジスト・白木久史氏(三井住友DSアセットマネジメント株式会社)による寄稿です。

週明け3月9日のニューヨーク市場は、トランプ大統領が「戦争の早期終結」についてコメントしたことが好感され上昇に転じました。米国とイランの戦争長期化や米軍による地上戦力投入を検討との報道を受けて、東京時間に1バレル119.48ドルまで上昇していたWTI原油先物は、トランプ大統領のコメントを受けて大幅反落となり、市場のリスクオフムードは短期的に大きく後退しました。果たして世界の株式市場と日本株は、このまま最悪期を脱して長期の上昇トレンドに回帰することができるのでしょうか。

 

日本株底打ち「3つの条件」

米国とイランの戦争長期化及び、中東原油の供給懸念から、週明け3月9日の日経平均株価は急落して一時51,407.66円の安値を付けました。前回のレポートでは日本株の底打ち・反転の条件として、(1)米国とイランの和平への動き、(2)原油価格の落ち着き、(3)世界株のアンカーである米国市場の底打ち・反転、のいずれか、ないしは複数が必要、との見通しをお伝えしました。

 

原油とVIXのピーク通過

週明けのWTI原油先物は東京時間に一時1バレル119.48ドルまで上昇しましたが、その後、G7が原油備蓄を放出すると報じられたことをきっかけに下落に転じ、ニューヨーク時間にはトランプ大統領が「イランにはもう空軍も、通信手段も、海軍もない。戦争の終結は近い」とコメントしたことで一時81.19ドルまで急落、3月10日は80ドル台半ばでの推移となっています(図表1)。

 

(出所)Bloombergのデータを基に三井住友DSアセットマネジメント作成
[図表1]原油先物の価格推移 (出所)Bloombergのデータを基に三井住友DSアセットマネジメント作成

 

また、週明けの米国株市場では、VIX指数(恐怖指数、S&P500のボラティリティ指数)が昨年4月以来となる約35.3ポイントまで上昇したのちに大きく急落したことで(図表2)、世界株のアンカーである米国株が「戦争と原油価格の高騰」という悪材料を咀嚼(そしゃく)して、最悪シナリオを織り込み底打ちしたものと思われます。

 

(出所)Bloombergのデータを基に三井住友DSアセットマネジメント作成
[図表2]VIX指数の推移 (出所)Bloombergのデータを基に三井住友DSアセットマネジメント作成

 

このため、足元の相場の変動の中で、日本株底打ちの条件のうち(2)、(3)について確認されたことで、日本株は短期的には「売りのピーク」を通過した可能性が高いものと思われます。

織り込み完了で陳腐化する「戦争」という売り材料

米国とイランの戦争については、長期化リスクと原油市場への影響が相場に織り込まれることで、短期的に日本株についても底打ちした可能性が高そうです。イランとの戦争について、米国の戦略目標の達成には長い時間を要する可能性が高そうですが、株式市場への影響という観点からは、大きな市場変動が急速に生じたことで相場としては最悪シナリオを織り込んでしまった可能性が高いと言えそうです。さらに、イランとイスラエルの確執は今後もこの2国が中東地域に存在する限り長期的に継続する地政学リスクとして残る一方、米国にとっては短期的な相場変動要因としての新鮮味を失っていくように思われます。

 

相場の材料として陳腐化していく「遠い国での戦争」

イランの首都であるテヘランとイスラエルのエルサレムは直線距離で約1,600キロほどしか離れていないため、互いに保有する弾道ミサイルの射程圏内にあります。このため、両国の緊張状態はまさに「今そこにある地政学リスク」で、今後も安全保障政策や外交戦略に大きな影響を与えることとなりそうです。一方、米国は中東地域から約1万キロ離れているため、「遠い国での戦争」を差し迫った危機として意識する米国人は殆どいないでしょう。

 

米国は有史以来、ほとんどの期間に何らかの戦争を継続しています。このため、アフガニスタン戦争(2001年10月から約20年間)のように長期化・泥沼化しても、同期間にS&P500種指数が約4.2倍に上昇したように(図表3)、「遠い国での戦争」が米国株に長期にわたり影響を与える可能性は限定的と言えそうです。そして、今回のイランとの戦争も米国のファンダメンタルズに若干の影響を与える「数ある地政学リスクの一つ」となっていく可能性が高そうです。

 

(出所)Bloombergのデータを基に三井住友DSアセットマネジメント作成
[図表3]アフガニスタン戦争中のS&P500の推移 (出所)Bloombergのデータを基に三井住友DSアセットマネジメント作成

日本株の投資インプリケーション

世界最大の産油国である米国は、トランプ大統領が示唆するように(1)輸出制限、(2)先物市場への介入、(3)連邦税の免除、(4)輸送規制の緩和、により原油価格とインフレ上昇を一定程度コントロール可能でしょう。一方、中東での戦争と原油価格の高騰が日本固有の「アキレス腱」となる点については注意が必要でしょう。日本は中東産原油に8~9割を依存し、ホルムズ海峡の封鎖は米国と異なり日本にとっては引き続き大きな問題となりかねないからです。また、イランの反撃もあってサウジアラビア産原油の輸送が停滞、在庫の積み上がりを受けて原油の減産が伝えられる点も、日本株固有のリスクとして意識する必要がありそうです。

 

米国株より複雑な日本株の今後

国際通貨基金(IMF)は原油価格の10%の上昇により世界経済の成長率が0.1~0.2%ポイントの下押し要因となると試算しています。仮に、原油価格が90ドル水準で今後1年間にわたり推移した場合、経済協力開発機構(OECD)が予想する2026年の日本の経済成長率である+0.9%(2025年12月時点)はゼロ近辺まで下振れることとなりかねない点についても注意が必要でしょう(図表4)。

 

(出所)OECDのデータを基に三井住友DSアセットマネジメント作成
[図表4]主要国の経済成長率見通し (出所)OECDのデータを基に三井住友DSアセットマネジメント作成

 

このため、今後の日本株については、中期的なインフレ懸念、原油供給懸念、景気減速懸念を織り込みながら、3月9日に付けた日経平均の安値51,407.66円を短期の底値に、時間調整を経て「二番底」を形成した後に、中期的な上昇相場に回帰していく展開を想定します。

 

ちなみに、日本株の物色動向については、ロシアのウクライナ侵攻後の原油価格急騰を伴う相場展開を踏まえ、(1)原油・天然ガス・穀物などのコモディティ価格上昇の恩恵を受ける業種、(2)防衛関連株、そして、出遅れが大きい米国のハイテク株の戻り相場への連動が期待される(3)AI、半導体、電力関連株、に物色が向かう展開が想定されそうです。

まとめに

米国とイランの戦争長期化への懸念から原油価格が急騰したことで一時は大きく調整した日本株ですが、(1)米国とイランの和平への動き、(2)原油価格のピークアウト、(3)米国株の底打ち・反転、の3つの底打ち条件のうち2つが確認されたことで、短期的に「売りのピーク」は経過したように思われます。

 

米国はその有史以来、ほとんどの期間で何らかの戦争を戦っており、遠く離れたイランとの戦争についても数ある「地政学リスク」の一つとして相場を動かす材料としては急速に影響力が低下していくものと想定されます。

 

一方、日本については、中東産原油への依存度や相対的な経済成長率の低さから、その影響は米国よりもかなり大きくなりそうです。今後、日本株が調整期間の中で二番底を付けることで中期の上昇トレンドへ回帰していく展開が想定され、物色動向としては(1)原油・天然ガス・穀物などの関連業種、(2)防衛関連株、そして、米国のハイテク株に連動しやすい(3)AI、半導体、電力関連株、などが注目できそうです。
 

 

※当レポートの閲覧にあたっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『「「売りのピーク」を通過した日本株の今後 最悪シナリオ織り込み、二番底形成で上昇トレンド回帰へ【解説:三井住友DSアセットマネジメント・チーフグローバルストラテジスト】』を参照)。

 

 

白木 久史

三井住友DSアセットマネジメント株式会社

チーフグローバルストラテジスト

【ご注意】
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