一度貧困のワナに陥ってしまうと、抜け出すことは困難です。貧困が貧困を生み、そんな連鎖がずっと続いていくのです。悲劇としていいようがない「貧困の連鎖」とは。今回はAさんの事例とともに、日本の貧困の実態について、社会保険労務士法人エニシアFP代表の三藤桂子氏が解説します。※個人の特定を避けるため、事例の一部を改変しています。
“親の低収入”が子に連鎖…年収130万円の30代男性、女手一つで育ててくれた母を恨まずにはいられない「切なすぎる理由」【FPが解説】 (※写真はイメージです/PIXTA)

転職を繰り返す日々

中学校卒業後、就職したのは製造業の小さな会社。面倒見のいい社長がいて、入社当初、若いAさんを可愛がってくれました。しかしあるとき、会社へ行くことが億劫になり、一度ずる休みをしました。すると、次の日もその次の日も働きたくない欲望が勝ってしまい、結局半年と経たず退職することに。その後は、お金が尽きる前に少し働いては同じような理由で辞めてしまい、転職を繰り返します。

 

学歴社会の現実

厚生労働省の「令和5年賃金構造基本統計調査結果の概況」によると、学歴別、年齢計の賃金は、男性で高校30万6,100円、大学39万9,900円、女性では、高校23万500円、大学29万9,200円となっています。

 

20歳未満に絞ると、小企業の中卒の男性は18万1,300円(令和元年調査)、同時期の高卒では18万2,800円です。さらに、生涯賃金で比べると、学校卒業後フルタイムの正社員を続けた場合の60歳までの生涯賃金(退職金を含めない)は、男性は中学卒2億円、高校卒2億1,000万円、高専・短大卒2億2,000万円、大学・大学院卒2億7,000万円となっています。

 

正社員を続けたとしても、1,000万円から7,000万円と差が出ていることがわかります。会社の規模等を加味すると、さらに開きがでてくることは想像できます。

 

Aさんは、運よく正社員で働けていた時期もありますが、学力が足りないことから、「中卒」と職場の人からかわれることもしばしば。また、嫌がらせを受けることもあったようです。仕事はどうしても長続きしません。転職を繰り返し、非正規雇用として働く33歳のいまの年収は130万円前後。一緒に暮らしていたころの母親の年収と変わらない金額です。

 

「俺だって子どものころに友達と一緒に遊びたかった。自分ではどうしようもなかった。大人になったらどうにか抜けだせると信じていたけどだめだった。親のせいだと思わずにはいられない」Aさんは振り絞るように思いを吐露しました。