ライフスタイルの一つである「FIRE」。実現には十分な資産を築くための時間と労力が必要です。しかし、必ずしも多額の資金が必要とは限らないケースもあって……。本記事ではAさんの事例とともに、FIREの多様な可能性について社会保険労務士法人エニシアFP代表の三藤桂子氏が考察します。※個人の特定を避けるため、事例の一部を改変しています。
心が満たされています…。33歳・貯金1,000万円でFIRE達成。米はタイ産、鶏肉はブラジル産、住まいは千葉の家賃3万円騒音アパート、訪ねた両親も首をかしげる「あまりに奇怪な暮らしぶり」 【FPが解説】 (※写真はイメージです/PIXTA)

FIREするには少なすぎる貯蓄額

FIREとは「Financial Independence, Retire Early」の頭文字をとったもので、「経済的自立と早期リタイア」のこと。FIREは、投資元本を用意して、その運用益で生活していくスタイルです。一般的に早期退職したあとは、これまで貯めた貯金や退職金等を生活資金として取り崩して生活していきますが、FIREであれば、元本を減らすことなく生涯を終えることができるといわれています。

 

資産運用額の約4%を毎年生活費として取り崩していけば、30年以上が経過しても資産が尽きる可能性は非常に低く、4%ルールの考え方により、生活費がこの範囲に収まれば、元本は減らずに翌年以降も同程度の利益が得られるとされています。

 

現在43歳の元会社員Aさんは、33歳のときにFIREを決意しました。しかし、FIREするにはあまりにも少ない貯蓄額からのスタートだったのです。

FIREのきっかけ

学生を卒業したAさんは都内にあるIT関連の中小ベンチャー企業に就職。はじめは新社会人のAさんは上司にいわれるがまま仕事に没頭し、やりがいを感じていました。しかし、入社して3ヵ月も経つと疲れが溜まってきます。

 

実績主義のこの会社では、成果が出るまで仕事が終わらない雰囲気で、当時にしては珍しくテレワークができることから、家にいてもひたすら仕事をする毎日だったのです。新入社員にしては月給が30万円と会社説明会でAさんもびっくりした給与でしたが、固定残業制のため、時間外手当分の20時間が含まれていました。

 

会社説明会では、仕事のやり方次第では残業がないという説明でしたが、入社したばかりのAさんは納期に間に合わないと家に戻ってからも仕事する毎日が続き、とても20時間の残業だけでは追いつかず、正確に時間管理をしていませんでしたが、入社して1年を過ぎたころには、優に月80時間を超える働き方をしていました。

 

過酷な働き方は長続きしません。それでも頑張って働きましたが体調を崩し、3年ほどで退職します。そのあとは有期契約社員となり、生活のためになんとなく働くようになりました。学生を卒業し、最初の就職では目標や働く意欲にみなぎっていたはずでしたが、退職後は特に目標もなく働く毎日を過ごしていました。

 

「このままの人生でいいのだろうか……」悩み続けていたところにAさんはインターネットの書き込みをみつけます。