一度貧困のワナに陥ってしまうと、抜け出すことは困難です。貧困が貧困を生み、そんな連鎖がずっと続いていくのです。悲劇としていいようがない「貧困の連鎖」とは。今回はAさんの事例とともに、日本の貧困の実態について、社会保険労務士法人エニシアFP代表の三藤桂子氏が解説します。※個人の特定を避けるため、事例の一部を改変しています。
“親の低収入”が子に連鎖…年収130万円の30代男性、女手一つで育ててくれた母を恨まずにはいられない「切なすぎる理由」【FPが解説】 (※写真はイメージです/PIXTA)

父の借金を機に、家がどんどん貧しくなった少年

Aさんの家庭は、母子家庭。父親が事業に失敗してから、働かなくなり借金が膨らんでいきました。このままでは最悪の事態となることまでを予想した母親は離婚を決意し、調停離婚します。当時、Aさんはまだ小学校1年生。1人留守番ができず、帰宅時間も早いことから、学童に通います。

 

母親の最終学歴は中学です。高校には2年ほど通っていましたが、出席日数の不足と成績の低下から留年してしまい、そのまま中退しました。その後はしばらく派遣の事務職員として働いていましたが、22歳で寿退社。以来、専業主婦でした。正社員としての経験が乏しい母親は、フルタイムで働く仕事が見つからず、パートで働きますが、年収は130万円以下。親子2人はひと月約10万円の収入内で生活することを余儀なくされ、児童扶養手当を合わせても生活は厳しいものでした。

 

母親は、「勉強したいなら、大学まで行かせてあげたい」といってくれましたが、「勉強は嫌いだから、中学を卒業したら、すぐに働きたい」と自分の気持ちとは裏腹な気持ちを伝えます。ですが、母親は息子の将来を心配し、せめて高校までは卒業してほしいと伝えます。

 

Aさんは、母親とワンルームの築40年のアパートで身を寄せて暮らしていました。小学校では、同級生たちが人気のゲーム機で遊んで盛り上がるなか、買ってもらえないAさんは遊びの話題についていくことができずに、1人で過ごすこともありました。

 

中学校時代は、放課後は部活動に所属しながらも、塾に通う同級生を横目に、仕事中の母に代わりスーパーの特売を狙って夕食の買い物をする生活でした。同級生たちからは「毎日同じ服を着ている」「スーパーで万引きしている」と噂され、いつも「なんで自分の家庭は貧しいのだろうか」とたまらない気持ちになっていました。

 

学校の勉強についていくことができず、次第に学校へは行ったり行かなかったりと不定期で登校するように。せっかく登校した日も、保健室へ直行して寝て過ごすということもありました。そのため、成績はさらに下がります。高校なんてどうでもいいと考えるようになり、Aさんが選んだ道は就職。

 

ひとり親世帯の貧困

ここで、子どもの貧困についてみていきます。

 

大人が2人以上いる世帯に比べると深刻で、国民生活基礎調査に基づく、相対的に貧困の状態にある子どもの割合は11.5%です。特にひとり親世帯の貧困率は44.5%と高く、近年の離婚率上昇によるひとり親世帯の増加は、子どもの貧困の要因の1つとなっていることも推測できます。