自民党総裁選で小泉進次郎氏が打ち出した解雇規制の見直しを巡り、各所で盛んに議論が繰り広げられています。その際、ひとつのキーワードとしてあがる「ジョブ型雇用」。一部の大手企業などですでに導入されている雇用制度です。本記事ではSさんの事例とともに、正規社員の解雇規制緩和によって想定されることについて、長岡FP事務所代表の長岡理知氏が解説します。
ジョブ型雇用で年収2,400万円の45歳サラリーマン、「転職前の年収450万円だったころ」に戻りたいと嘆く理由…正規社員・解雇規制緩和の「皮肉な処方箋」【FPが解説】 (※画像はイメージです/PIXTA)

苦節の末、3回目の転職で最高年収3,000万円に

<事例>

Sさん 45歳 ハウスメーカー勤務

年収2,400万円

独身(離婚歴あり)

過去に転職2回、3社目

 

Sさんはハウスメーカーの営業マンです。現在45歳。大学を卒業して就職したのがハウスメーカーで、それから23年、住宅営業を専門に行ってきました。現在の業績は年間契約数32棟で、勤務先ではダントツのトップセールスです。年収は2,400万円で、数年前には3,000万円を超えたこともあるほどです。

 

そんなSさんですが、新卒で就職した大手ハウスメーカーではまったく売れず2年間ゼロでした。その会社には明確な解雇基準はなかったものの、店長にやんわりと退職勧奨をされ、実質的に解雇となりました。店長からは「今日の午後から有給扱いにするのでもう出勤しなくていい、私物は定休日に取りにくればいい」と言われ、24歳だったSさんはショックを受けました。

 

クビになったなど実家の両親に言えず、失業手当をもらって丸2ヵ月アパートの部屋に引きこもったことを覚えています。

 

転職した先もハウスメーカーでした。一社目よりもはるかに小さい会社で研修体制が整っているわけではなかったものの、水があったのか突然年間12棟売れるようになり、自信もつきました。

 

しかしこの会社は社長が歩合給制度を嫌う人だったのです。いくら売っても歩合給はありません。全員で利益を上げ、全員が昇給していくのが理想だと何度も言っていました。

 

若かったSさんはそれが不満に。前の会社ではトップセールスは輸入車に乗って出勤するなどスター扱いでした。年間12棟を売っても年収は450万円。年間1棟しか売れない営業も、12棟売る営業も基本的には固定給のみです。解雇制度はなく、退職する社員はほとんどいない会社でしたが、Sさんは30歳となったときにこの会社を辞めました。

 

3社目、現在の勤務先はスカウトによる転職でした。高価格帯の注文住宅を販売するハウスメーカーです。前職と異なり、歩合制がメインの会社です。強い販売モチベーションを持つ営業社員が多いのが特徴。大声で社訓を連呼するような朝礼があるものの、営業力のある会社です。しかし、解雇制度がしっかりとありました。年間契約数4棟を下回ったら解雇です。

 

Sさんは解雇制度の詳細を見て、かつて自分が解雇になったときの惨めさを思い返してしまいました。この時点でSさんは結婚していて子供もいたため、解雇制度に少し恐怖心を持ちました。

 

「売れっ子営業マンだし心配しなくていいよ」と妻が励ましますが、Sさんは嫌な予感がします。

 

しかしSさんはこの会社で大きく業績を伸ばし、33歳を超えるころから30棟前後を契約できるようになりました。住宅業界でも決して少なくはない棟数です。商品力とSさんの営業スタイルがマッチしたのでしょう。年収は業界のマイルストーンである1,000万円を軽く超え、2,000万円の大台に。

 

一般的な会社であればSさんは支店長など管理職に抜擢され、職種変更していくルートかもしれませんが、この会社とは実質的なジョブ型雇用の契約でした。Sさんは定年退職まで営業マンを続ける契約です。

 

「自分のことだけ考えていればいいから楽だな」とSさんは考えていたものの、次第にモヤモヤしたものが心に広がるように。

 

その原因はこの会社に蔓延する個人主義と無関心のこと、そして次々と解雇されていく新卒社員たちのことです。