自民党総裁選で小泉進次郎氏が打ち出した解雇規制の見直しを巡り、各所で盛んに議論が繰り広げられています。その際、ひとつのキーワードとしてあがる「ジョブ型雇用」。一部の大手企業などですでに導入されている雇用制度です。本記事ではSさんの事例とともに、正規社員の解雇規制緩和によって想定されることについて、長岡FP事務所代表の長岡理知氏が解説します。
ジョブ型雇用で年収2,400万円の45歳サラリーマン、「転職前の年収450万円だったころ」に戻りたいと嘆く理由…正規社員・解雇規制緩和の「皮肉な処方箋」【FPが解説】 (※画像はイメージです/PIXTA)

雇用関係がある場所でのプロ意識

Sさんが言います「新卒の子に能力的にちょっと心配な子がいて、お母さんがよろしくお願いしますと職場に挨拶に来たことがありました。責任を持って育てて一人前にしなきゃなと思っていましたが、店長を含め、先輩社員たちも親身にはならず、叱りもしない。あっという間に成績ゼロで2年が過ぎ、その子は解雇されてしまいました。事務的に解雇を言い渡されたのでしょう、会議室から出てきた彼は泣いていました。その日のうちにいなくなったのですが、きっと家ではお母さんも泣いたんじゃないかと想像しました……」。

 

自分が解雇されたときのことを強く思い出したのです「当時の僕は惨めで、世の中から必要とされないなら死にたいとさえ思ったものです」。

 

ジョブ型のような雇用契約では、基本的に自分のことを優先してしまうのは当然です。自分も結果を出さなければすぐに解雇されてしまいます。隣の同僚の手伝いをする気にはなれず、苦戦している新人に個人的なノウハウを教える余裕など生まれません。

 

そのことを役員と話し合ったことがありました。「僕もケガや病気になって売れなくなったら解雇なのでしょう」とSさんが言うと、それにたいして役員は「それがプロの世界だ」と言うのです。Sさんはその言葉に驚いてしまいました。

 

プロ? プロ野球選手じゃあるまいし、雇用関係がある場所でプロという言葉で社員の生活に対する責任を誤魔化しているだけではないのか。「プロではなく、経営者でもなく、労働者ですよ僕たちは」Sさんはそう言うものの、役員は素知らぬ顔です。

 

このような社風の中で、自分のことをプロだと言い、解雇される人たちを見下す後輩社員まで現れていました。「ダメなら退場するのがプロの掟。仕方ないよ、会社に必要ないんだから」などと。Sさんは我慢できず、その社員を強く叱責しました。「なぜ君のような労働者が経営者側に立つのか。明日は我が身とは思わないのか」と言い、後輩と口論になってしまいました。

 

しかしSさんは立場上、家を売ることを職務として雇用契約をしています。それ以外のことは求められてなく、管理職や経営者の役割に口を出すことは許されません。Sさんもまた自分のことだけ考え、機会を見てまた次の企業へと移籍することを計画しなければなりません。自分もいつ解雇されるかわからないのです。役員たちからは煙たく思われているはずで、法律さえ変わればすぐに解雇されるのでしょう。