誰にでも死は訪れます。大切な家族の最期のあり方を想像したことがあるでしょうか。もし認知症などにより本人の意思確認が困難となったとき、延命処置を施し生き永らえさせることについて、どう考えるでしょうか? 本記事ではYさん家族の事例とともに、終末期の介護の実態を長岡FP事務所代表の長岡理知氏が解説します。
延命を願った「妻」…年金20万円の認知症終末期・85歳夫の「胃ろう」、50代の子どもたちは望まなかったワケ【FPが解説】 (※画像はイメージです/PIXTA)

終末期のあり方

「胃ろう」のあり方について、SNSで有名人が「寝たきり老人への胃ろうの保険適用」について批判したところ、大炎上となったことがあります。寝たきり老人というくくり方は大雑把すぎて大きな問題がありますが、終末期のあり方について考えるきっかけになったかもしれません。
 

「胃ろう」とは?

胃ろうとは、口から飲食物が取れない状態になったとき、人工的に水分や栄養を補給する方法のひとつです。おなかの表面から胃に穴を開け、胃と外部を管でつないで水分や栄養剤、薬品などを送ります。開腹手術は必要なく内視鏡を使って造設を行うため、短時間で終わります。

 

胃ろう造設は基本的に「数年は生きられるはずだが、食べ物が経口で摂取できない人」に検討されます。脳血管障害、外傷性脳損傷、ALS(筋萎縮性側索硬化症)などの患者には非常に有益な処置となります。元来、内視鏡による胃ろう造設は疾患によって口から食べることができない子供のために開発された技術です。

 

胃ろうがあっても少量なら口から食べることができ、病気から回復したら管を抜くことも可能です。胃ろうは自分らしく生きるための手段のひとつといえるでしょう。ここで誤解すべきではないのは、胃ろうは延命のためではないという点です。

 

胃ろうの賛否

問題となるのは、認知症末期の場合です。終末期を迎え、意思疎通が不可能になった人に対して胃ろうを造設することの是非が頻繁に話題に上がります。本人が一日でも長く生きたいと強く願っていたのならばいいのですが、終末期に望まない延命をさせられるのは嫌だと本人が思っていた場合、理想の亡くなり方を否定することになってしまいます。自分らしく生きる権利があると同時に、自分らしく終末を迎える権利もあるはずです。この判断が本人ではなく家族に委ねられるところに問題が発生しやすいのです。

 

2022年に、終末期を迎えた自分の母親に息子が胃ろう造設など延命処置を求めたところ、医師に拒否されたとして逆恨みし、医師を散弾銃で殺害した痛ましい事件が起きたことがあります。これでは医師も恐怖のあまり家族の求めに応じて安易に胃ろうを造設するほうが無難となりかねません。

 

終末期の家族を一日でも延命したいと考えるのは自然なことですが、つらい介護によって視野が狭くなってしまうこともあります。在宅介護の場合、介護をする家族の人生が狂ってしまうこともありえます。離職をし夢を諦め、何十年も家族の介護生活を続けた結果、介護が終わったあとで就職が難しくなっていたこともあるでしょう。疲れと混乱から介護される人の意思を想像できなくなる精神状態に追い込まれるかもしれません。また、患者と激しいトラブルになった医師の中には、「延命を望むのは親の年金を当てにしているからではないか」という見方をしてしまう人もいます。医師も疲弊してしまうのです。

 

介護される本人の自立した意思を尊重できているのか、家族には難しい問題です。介護してきた親の終末期を迎えるにあたって、トラブルととなった家族の事例をご紹介します。