自民党総裁選で小泉進次郎氏が打ち出した解雇規制の見直しを巡り、各所で盛んに議論が繰り広げられています。その際、ひとつのキーワードとしてあがる「ジョブ型雇用」。一部の大手企業などですでに導入されている雇用制度です。本記事ではSさんの事例とともに、正規社員の解雇規制緩和によって想定されることについて、長岡FP事務所代表の長岡理知氏が解説します。
ジョブ型雇用で年収2,400万円の45歳サラリーマン、「転職前の年収450万円だったころ」に戻りたいと嘆く理由…正規社員・解雇規制緩和の「皮肉な処方箋」【FPが解説】 (※画像はイメージです/PIXTA)

「ジョブ型雇用」と「メンバーシップ型雇用」

解雇規制の緩和の問題を語るとき、ジョブ型雇用という言葉も出てきます。これは労働契約において、職務が特定される雇用関係のことをさします。たとえばマーケティング、経理、管理職、営業など企業によって多種多様の職務を、それぞれ専門に行うという労働契約のことです。

 

欧米では一般的なこの雇用関係は、日本ではごく一部の大手企業(のさらに一部の職種)にのみ導入されています。ジョブ型雇用は、従業員の年齢構成が変わり従来型の年功序列型の賃金体系が維持できなくなったことや、従業員の適性に応じて業務をアサインできることが導入理由として挙げられます。職務に対して賃金を支払うという労働契約を結ぶため、経験を積んだ専門性の高い人材を新たに採用することも容易となります。

 

一方で解雇という側面から見ると、「当該職務が不要になった」「能力が不足している」という理由を持って解雇しやすくなるともいえます。

 

日本企業では、長年「メンバーシップ型雇用」を行ってきました。新卒者を一括採用し、社内のさまざまな職種をローテーションで異動させながら、企業のメンバーとして終身雇用を目指すというありかたです。担当の職務が不要となっても配置転換をしてほかの職務に就くことが可能で、解雇はよほどの不祥事や深刻な人員整理がない限り行われません。ただし、このメンバーシップ型雇用は人件費がかさむ一方で、従業員の専門性が育ちにくいというデメリットがあります。

 

ただしメンバーシップ型雇用のメリットは、「能力面で多少劣っていても安定した雇用を保証してもらえる」という点です。誰もが能力とモチベーションが高いわけでもないし、いつまでも健康ではないのです。能力的な点でハードルがあっても企業という組織のメンバーでいつづけられるのは人生設計において非常に重要です。

 

ライフプラン、特に住宅ローン計画へ大きな影響を与えるジョブ型雇用

社員個人のライフプランから考えてみると、メンバーシップ型雇用のほうが、メリットが大きいのはいうまでもありません。住宅ローンなど大きな債務を負っている場合は、5年後、10年後の職の安定と賃金の見通しがなければ不安が強くなります。ましてや解雇規制が緩和され、いつでも解雇される危険があるとしたらどう感じるでしょうか。「住宅ローンなど危なくて借りたくない」と思うのが自然です。

 

ジョブ型雇用と解雇規制緩和が結びつくと、職場の雰囲気が変わる可能性があります。中小企業に勤務する労働者にとってどんな影響があるでしょうか。すでに中小企業においても実質的なジョブ型雇用と解雇制度を備えた業種、職種が存在します。そこでの事例をご紹介します。