自民党総裁選で小泉進次郎氏が打ち出した解雇規制の見直しを巡り、各所で盛んに議論が繰り広げられています。その際、ひとつのキーワードとしてあがる「ジョブ型雇用」。一部の大手企業などですでに導入されている雇用制度です。本記事ではSさんの事例とともに、正規社員の解雇規制緩和によって想定されることについて、長岡FP事務所代表の長岡理知氏が解説します。
ジョブ型雇用で年収2,400万円の45歳サラリーマン、「転職前の年収450万円だったころ」に戻りたいと嘆く理由…正規社員・解雇規制緩和の「皮肉な処方箋」【FPが解説】 (※画像はイメージです/PIXTA)

正規社員の解雇規制緩和

「正規社員の解雇規制緩和」という言葉が最近話題です。これはいま初めて生まれた言葉ではなく、この20年ほど定期的に話題となっています。

 

わかりやすく簡単にまとめると、「正社員を解雇しやすくしましょう」という意味になります。「正社員を簡単に解雇できるようになると、労働力の流動化が起き、企業の生産性が上がり景気回復に繋がる」ということです。正社員を解雇しやすくすることと景気回復が結びつかないという人もいるかもしれません。

 

「正社員を解雇したら景気回復に繋がる」とは……。なぜそのような議論がいま起きているのでしょうか。

 

解雇規制緩和論の背景

日本においては企業が正社員を解雇するためには非常に厳しいハードルがあります。解雇には4つの種類があります。「整理解雇」「懲戒解雇」「普通解雇」「退職勧奨」です。このうち整理解雇、つまり会社業績の悪化を理由に人員を削減するための解雇は、「整理解雇の四要件」と呼ばれる厳しい条件をクリアしなければなりません。

 

・人員削減の必要性
・解雇回避努力義務の履行
・人員選定の合理性
・解雇手続の妥当性

 

整理解雇するためには役員報酬のカットや新規採用の停止、内定者の取り消し、配置転換などの努力が見られない限り、解雇は認められません。普通解雇においては、労働者の能力不足、素行を理由に解雇するものですが、こちらもやはり配置転換や降格、教育などの努力を企業が行い回避努力をすることが前提となっています。営業職などに対して個人成績の不振だけを理由に解雇するのは許されないとされています。

 

これらは労働者の権利を守るためのルールですが、一方で、これが非正規雇用を生み出した最大の原因ともいわれています。