誠さんが投資に使うべきだった「適正額」とは?
一連の話を聞いた筆者は、まず誠さんが投資に使える余剰金を簡易的に計算してみることにしました。
まず支出面ですが、現在の誠家の生活費は、28万円前後です。
一方、収入面をみると、61歳の退職時から年金を受給する65歳までの4年間は無収入です。
65歳からは、老齢厚生年金を約300万円(月額約25万円)、66歳以降は約348万円(月額29万円)受給見込みのため、65歳以降は年金で生活費が賄えるでしょう。しかし、それまでの4年間は、28万円×4年間(48ヵ月)=1,344万円の生活費が必要です。
加えて、自宅のリフォームや介護が必要になった場合の費用を約1,200万円と考えると、1,334万円+約1,200万円=約2534万円と、退職金とほぼ同額の約2,500万円必要であることがわかります。したがって、誠さんが投資にあてられる余剰金は、もともと貯蓄額とほぼ同額の500万円しかなかったことになります。
投資をやめる?続ける?…誠さんの「決断」は
次に、誠さんが気にしている、AファンドとB株のその後の値動きを見てみます。
8月5日の大暴落の翌日、6日の東証で日経平均株価は急反発。前日比の上げ幅は、3,217円(10%)高の3万4,675円と、過去最大の上昇幅で取引を終えています。
いったん値下がりしたAファンドの基準価額も、誠さんが購入した額までほぼ値を戻しています。「NISAはそもそも中長期で運用するのが基本ですから、あまり心配はいりませんよ」と筆者は誠さんに声をかけました。
またB社株の株価は、現在1株3.5万円です。この値でB社株を売却したら、この銘柄はNISAではありませんから、3.5万円(現在の株価)×300株-3.06万円(平均取得単価)×300株=132万円。132万円の売却益に20.315%課税され、また証券会社に支払う所定の手数料も必要です。
誠さんは、FPから説明を受け、「もうこんな思いをするのはごめんです」と、B社株をすべて売却することにしました。結果、約920万円投資して、諸税や手数料を差し引き、約1,000万円戻ってきました。
誠さんは、「年甲斐もなく熱くなって、後先を考えずにことを進めてしまいました。妻の助言も聞き入れず、専門家に助言を求めることもなく、後悔しかありません」と肩を落とします。
新しく物事を始める際には、身近な人や専門家などの助言を聞いたうえで、冷静な判断を心がけたいところです。
牧野 寿和
牧野FP事務所合同会社
代表社員
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