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東京本社へ異動…再び母親との2人暮らし
地方で着実に実績を積み重ねた智子さんは、入社8年目、東京の本社勤務を命じられます。東京に戻ると、母親から「いまのアパート、耐震性がどうとかで退去するようにいわれているの」と連絡がありました。そういわれては断れず、智子さんは、通勤に便利な2人暮らし用の賃貸マンションを借りました。
やはり、東京に戻ると母親からは逃れられない運命なのでしょうか。そのころから母親は、完全に智子さんの収入に頼るようになっていました。
老後をまったく心配しない母親
出世を重ね、42歳になった智子さんの年収は2,000万円。国税庁の「民間給与実態統計調査」によると、2025年時点の40代女性の平均年収は約343万円です。智子さんは経済的に非常に恵まれた立場にいるといえます。しかし、その一方で、母親との同居生活は、智子さんにとって大きな負担となっていました。
65歳となり母親は年金受給時期を迎えます。智子さんの学生時代は非正規雇用として働き、無職となってからは国民年金を智子さんが代わりに支払っていたものの、年金受給額は月額8万円。厚生労働省の調査によると、国民年金と厚生年金を合わせた平均的な年金受給額は、月額10万円台後半となっています。平均的な高齢者の年金受給額と比較しても、決して多いとはいえません。経済的に不安定な母親は、次第に智子さんに依存するようになり、精神的な負担も大きくなっていきました。
智子さんは母親が電話で友人と雑談をしているのを聞きます。「年金なんて雀の涙よ。国はなんにもしてくれないのよね。でも私は安泰よ。娘の年収、いくらだと思う？ 2,000万円よ、2,000万円。私が犠牲になってあの子を育てたんだから、親の面倒を見続けるくらい、当然よね」そう高らかに笑っていました。
お母さんが「頭がよくなければ貧しくなる」といい続けたから…
「お母さん、私、結婚することにしたの。地方に移住するからもう一緒に住めない。ごめんね」智子さんは母親に同居解消を告げます。
母親にとって、それはまさかの言葉でした。「ちょっと待ちなさいよ。結婚？ 地方？ あなた、本気なの？」
「うん、本気よ。もうお母さんのために生きるのは限界なの。フルリモート勤務にするために部署を異動するし、収入は減るけれど、これが私の幸せだから」
「誰のおかげでいまの立場があると思っているのよ」声を荒げる母親。智子さんは「私がいなければお母さんももっと自由に生きられたよね。お母さんがずっと私にいい続けたから、勉強を頑張ってたくさんお給料をもらえるようになった。だけど私はお母さんのために生きているんじゃない。残りの人生もこのままなのは耐えられない」ふり絞るように返し、荷物をまとめはじめました。母親は、なおもなにかいおうとしましたが、智子さんの決意の固い表情を見て言葉を飲み込みました。
そして智子さんは母親を残し、家を出て行ったのです。
