パンデミックをいち早く乗り越えた国
私がデンマークの「時代の変化への対応力」を体感したのは、新型コロナ禍の2020年から2022年にかけてだった。予期せぬ変化に合わせて機敏に動くデンマーク政府と、危機においても他人を信頼し、お互いを思いやり、楽観的に未来に向かって前進し続けるデンマーク人の姿を見て、デンマークという国の底力を見た気がした。
デンマークは、新型コロナ対策をリードする国として、世界に注目されていた。間違いなく、新型コロナの危機を世界でもっとも上手く乗り切った国の一国だろう。変化に迅速に反応し、専門家と連携して状況を把握し、国民とわかりやすく情報を共有する。そのうえで、長期的な目線に立って具体的な対策を打ち立て、今後のプランを公表する。
政府の対応の速さと、政府の対応を受けての国民の行動力の速さには、本当に驚かされるものがあった。
新規感染者数の最高記録を更新中にマスクを外したデンマーク人
数々の驚きのエピソードがあるが、最も衝撃的だったのは、2022年1月末、1日あたりの新規感染者数が最高記録を更新している最中に、デンマーク政府が欧州で初めて規制全撤廃に踏み切る発表をしたことだろう。衝撃的なニュースは世界中を駆けめぐり、大きな話題になった。
当時、私のもとにはテレビ局からのオファーが殺到。スマホでコペンハーゲンの街の様子を撮影し、デンマーク人にインタビューした動画が、日本の主要なテレビ番組で次々に放映された。
真っ先に規制を全撤廃したうえに、規制が撤廃された途端にみんなが一斉にマスクを外して街に繰り出していった光景は、日本の視聴者にとっても衝撃的だったようで反響が大きかった。
デンマークでは2022年2月1日の規制全撤廃を境に、パンデミックは「終わった」。国民はすぐに日常生活に戻り、コロナの存在を忘れていった。変化への対応が、信じられないほど速い。状況の変化に合わせて柔軟にルールを変える。ルールが変われば、すぐに行動も変える。
デンマークの国際競争力がナンバーワンになったのは、単なる偶然ではない。
針貝 有佳
デンマーク文化研究家
デンマーク在住。1982年生まれ。早稲田大学大学院社会科学研究科にてデンマークの労働市場政策「フレキシキュリティ・モデル」を研究して修士号取得。2009年末にデンマーク移住後、13年以上にわたってテレビ・ラジオ・新聞・雑誌・ウェブ等からデンマークの現地情報を発信。社会学的アプローチで社会を観察し、デンマーク語で現地の第一次情報にアクセスし、情報・世論・市民の声を届ける。執筆記事は400本以上、企業向けのレポート制作は300事例を超える。
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