「父が特養に入所」一時的に安堵した娘だったが…
特別養護老人ホーム(特養)は、介護が必要な高齢者にとって理想的な施設とされていますが、入所までには高いハードルが存在します。入所が認められるのは、要介護3以上である場合、または認知症であり、日常生活に支障をきたす症状や行動が頻繁にみられる場合などです。
要介護3であった、80歳の小山さん(仮名/男性)。在宅での介護が限界に達していたため、娘さんは特養への入所を申請しました。
厚生労働省『特別養護老人ホームの入所申込者の状況(令和4年度)』によると、入所申込者(特養に申し込んでいるものの、調査時点で当該特養に入所していない人)は29.2万人(そのうち在宅は11.6万人)にも上るとされています。小山さんが特養に入所できたのは、娘さんの根気強い努力とタイミングが重なった結果でした。
父が特養に入所したことで、一時的に安堵した娘さん。月14万円の年金で生活費を賄いながら、特養でのケアを受ける父の姿に、これまでの苦労が報われる思いでした。しかし、入所から3ヵ月が経過した頃、特養から退去勧告が届きました。
退去の理由は、父の介護度が当初の見込みよりも軽減し、特養での受け入れ基準を満たさなくなったことでした。特養は、重度の介護が必要な高齢者を優先的に受け入れる施設であり、父の状況が改善したことで、他の待機者にその場所を譲る必要が生じたのです。
特養は、重度の介護が必要な高齢者を対象としており、入所後に状態が改善した場合、退去を余儀なくされることがあります。要介護1・2となると必ず退去を迫られるというわけではなく、認知症である場合、知的障害・精神障害等がある場合には継続できることもあります。
介護保険制度は、介護サービスを受ける権利を保障する一方で、そのサービスを受け続けるための条件が厳しく設定されています。特養のような施設は限られたリソースで運営されているため、重度の介護が必要な高齢者を優先的に受け入れざるを得ないのです。そのため、厳しい話ではありますが、状態が改善した高齢者は、退所を迫られることがあります。
退去勧告を受けた娘さんは、「こんなにも早く追い出されるとは…」と深いため息をつきました。一旦、父を再び自宅で介護しようと決意しましたが、ご自身も55歳で体力や健康に不安を抱えています。これからの生活に対する不安は大きいということです。