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【目次】
1. 敵失と銃撃事件で点灯する「トランプ当確」
2.「トランプトレード」発動
3.「トランプトレード」の賞味期限
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討論会での劣勢に加えて国際会議でゼレンスキー大統領をプーチン大統領と言い間違えたことなどから、バイデン大統領の支持率と民主党内での求心力が急速に低下しています。そんな最中、遊説中のトランプ前大統領が狙撃され、更に顔面を鮮血に染めながら拳を突き上げ聴衆にアピールしたことで、「力強いリーダー」との印象を広める結果となりました。このため、早くも「11月の大統領選はトランプ再選で決まり」との見方が広がっています。そしてマーケットでは、トランプ前大統領の当選を先取りする「トランプトレード」が注目を集めています。
1. 敵失と銃撃事件で点灯する「トランプ当確」
■弱冠二十歳の狙撃犯による暗殺未遂と被弾直後のトランプ前大統領の立振る舞いの「凄み」から、同氏が再選するとの見方が急速に広がっています。
■様々なギャンブルを取り仕切るブックメーカーたちが見込むトランプ前大統領の当選確率は、Bloombergの集計によれば狙撃事件があった7月13日を境に急上昇し、7月16日現在66.8%と事件前から約10ポイント上昇しています(図表1)。
■民主党内ではトランプ氏の再選を阻止するため、新しい大統領候補を模索する動きが続いています。しかし、最有力候補のカマラ・ハリス副大統領は度々パワハラ疑惑が報じられ、実際に秘書やスタッフがこれまで大量に離職していることもあり、人物像に疑問符がつく等、とてもトランプ氏に対抗できそうにはありません。このためマーケットでは、「トランプ当確」を織り込む「トランプトレード」が勢いを増しています。
2.「トランプトレード」発動
■トランプ前大統領が再選されることに賭ける「トランプトレード」は、様々な金融資産に広がっています。例えば、株式市場では、トランプ氏が規制に反対する銃関連企業だけでなく、トランプ政権が実現した場合に規制緩和の恩恵が期待される資源エネルギーや、金融セクターも物色の対象となっているようです(図表2-1、2-2)。
■また、これまでの民主党政権は万引きなどの軽犯罪や不法移民に寛容であったと言われる一方、トランプ政権下では法改正や法運用の厳格化からこうした刑法犯の逮捕者が急増する可能性があるため、刑務所関連ビジネスにも投資資金が向かっているようです。
■また、トランプ氏が大統領に返り咲いた場合、大型減税などによる財政悪化が懸念されるため、長期金利には上昇圧力がかかることになりそうです。一方、米国ではここもと弱い景気指標が目立ち、一時は高止まりが懸念されたインフレも落ち着きを見せていることもあって、利下げ期待から短期債の利回りは低下傾向にあります。このため、短期債の買いと長期債の売りを組み合わせた「スティープナー(イールドカーブの傾きが急になると儲かる取引)」のポジションを組む動きが強まりつつあります(図表3)。
■そして、トランプ前大統領は自身に関連する暗号資産(ミーム・コイン)が発行されていることもあって、仮想通貨に好意的とされています。このため、仮想通貨や同取引業者などにも、「トランプトレード」としての物色が広がっているようです。
3.「トランプトレード」の賞味期限
■足元では「トランプトレード」がマーケットを席巻しかねない勢いですが、一つ注意したい点があります。というのも、前々回2016年の大統領選挙では、投票結果が出るまでトランプ大統領の誕生を懸念して、株式市場は調整色を強めていたからです。そして、こうした「トランプリスク」を反映した株式市場の調整が、トランプ氏当選後に報じられた法人税の大幅減税などを手掛かりとした「トランプトレード」の上げ幅を増幅する形となったからです(図表4)。
■一方、今回の「トランプトレード」は、選挙結果を先取りする形で市場全体としては「好ましいイベント」として織り込みを始めています。「Buy the rumor, sell the fact(思惑で買って事実で売る)」との相場格言がありますが、織り込み済みの材料に相場を動かす推進力を期待するのは愚の骨頂でしょう。そう考えると、選挙後によほどの政策的な「ポジティブサプライズ」がない限り、今回の「トランプトレード」は、「トランプ再選」という予想通りの結果が出るまでの、期間限定の動きと割り切ったほうが無難と思われます。
<まとめに>
「政界には3つの坂がある。上り坂、下り坂、そして『まさか』」と言ったのは、第87代内閣総理大臣小泉純一郎氏です。一寸先は闇と言われる政界にあって、予想外の「まさか」はつきものと言えそうです。このため、トランプ氏の再選が確実視されるような状況下でも、「トランプトレード」で目一杯のリスクを取るのは賢い振る舞いとは程遠いように思われます。更に、今回の「トランプトレード」が盛んになった時期は前回と比べて大きく前倒しとなっていることから、その賞味期限は短いと考えた方が無難で、深追いは禁物と言えそうです。
(2024年7月17日)
※個別銘柄に言及していますが、当該銘柄を推奨するものではありません。
※当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『当確点灯?からの「トランプトレード」発動(“賞味期限”にはご注意ください)【解説:三井住友DSアセットマネジメント・チーフグローバルストラテジスト】』を参照)。
白木 久史
三井住友DSアセットマネジメント株式会社
チーフグローバルストラテジスト