「今まで甘やかせすぎたんですよ。40歳にもなって…」
結局、この日は何も解決できないまま終了。事の顛末を聞いた次女のヨシコさんは「兄さんの言うことなんて聞いてられない。本当に困ったら自分でなんとかするでしょ」と強硬姿勢です。でもお母さんの意見も聞いてあげないと……と、頭が冷えて慎重姿勢を取り戻したサキコさんでしたが、「待ってる間に骨折したら? 火事でも起こしたら? 誰が責任とるの?」と妹がピシャリ。我に返りました。
2人は現在、着々と老人ホーム入居の準備を進めています。問題のカズオさんに関しては、「やっぱりお母さん、老人ホームに入ってもらうことにしたから」と一言メールを送っただけだそう。
「私たちは遺産を全部諦めて、家もお金もあげるんです。これ以上かまっていられません。電話も来るけど無視しています。まだ40代なんだし、この先どうとでもなるでしょ。今まで甘やかせすぎたんですよ」
淡々と話すのは次女のヨシコさん。もともと兄妹の仲はよくありませんでしたが、今回の出来事をきっかけに、ほぼ絶縁状態になってしまいました。
*****************************************************
……この事例は相続トラブルの典型例といえましょう。ただえさえお金が絡むと揉めるものですが、「遺産分割」は争いの火種になります。特にきょうだい間で生活の格差が著しいと、価値観の違いが大きな亀裂を生んでしまうのです。
なお相続放棄については、下記を参照ください。
“言わずもがな、相続人は相続の効果を確定的に消滅させる、つまり「すべて相続しない」という意思表示ができます。これが相続放棄です。
相続放棄について、次のようなことが知られています。
●相続放棄をしたら、その相続に関しては最初から相続人にならなかったものとみなす(民法939条)
●相続放棄をした人に子(直系卑属)がいても、代襲相続はできない
●相続放棄の意思表示は、相続の開始があったことを知った日から3ヵ月以内に家庭裁判所に申述しなくてはいけない
●相続放棄は相続人が単独で行うことができる
●一度申述した放棄は撤回できない”(江幡吉昭『親族「みんなが相続放棄」をすると、何が起きる?…意外な答え』)