(画像はイメージです/PIXTA)

世界的に著名なワインの産地、フランスのボルドー地方。4月22日から25日にかけて開催されたアン・プリムールの試飲イベント「アン・プリムール・テイスティング・ウィーク」では、多くの関係者、ワイン愛好家たちでにぎわいました。ここでは、イベントを通じたボルドーワインの流通のしくみや、取引の多層的なサプライチェーンの構造から、良質なワインを安く購入するヒントを探ります。

高級ワイン愛好家待望の「アン・プリムール」試飲イベント

4月22日から25日にかけて開催された「アン・プリムール・テイスティング・ウィーク」。この期間、ボルドーは特有の盛り上がりを見せます。アン・プリムールの試飲は、高級ワイン愛好家にとって欠かせないイベントなのです。

 

ボルドーのグラン・クリュ組合(Union des Grands Crus de Bordeaux)の主催のもと、この1週間はワイン業界の専門家が集い、100を超えるシャトーの最新ヴィンテージを試飲します。バイヤーやワイン商、ブローカー、報道関係者、ワイン評論家など、さまざまな関係者が試飲会に参加します。

 

私たちは、2023年ヴィンテージの品質を評価するためにシャトーを訪問し、収穫の特性や生産者の最新情報をオーナーから聞き取りました。このようなインタビューを通じて、ワイン商たちはアン・プリムールの購入計画を立てることができます。アン・プリムール・ワインの販売は、ボルドー市場の特徴とも言えます。この商慣習により、ワイン商やブローカーはボトル詰めの18~24ヵ月前に最新のヴィンテージを購入することが可能となります。

 

シャトー・ベイシュヴェル(Château Beychevelle)のワインセラーの様子。
シャトー・ベイシュヴェル(Château Beychevelle)のワインセラー。

 

アン・プリムール・ワインがボルドーで発表される際、各生産者でのテイスティングが行われ、ワインの品質とポテンシャルが評価されます。ジェームズ・サックリング、ジェーン・アンソン、ジェブ・ダンナック、ロバート・パーカー ワイン・アドヴォケイトなどの一流ワイン・ジャーナリストが参加し、ヴィンテージの品質について意見を述べます。プレスやトップクラスのワイン評論家が、消費者が求めるワインに評価を与える役割は非常に重要です。

 

この試飲会の後、各生産者は自社のワインのリリース価格を順次発表します。この重要なキャンペーンは、4月30日にシャトー・レオヴィル・ラス・カーズ、シャトー・ポンテ・カネ、シャトー・ヴァランドローの3つの大物ワインのリリースから始まりました。

アン・プリムール制度の利点

アン・プリムール制度の主な利点は、買い手はワインがボトル詰めされ店頭に並ぶ前の価格よりもしばしば安く購入できることです。このため、直接割当を受ける少数のバイヤーは、競争力のある価格で高品質のワインを確保すると同時に、非常に人気のある特定のヴィンテージを手に入れることができます。

 

シャトーから特別に直接購入することの利点のひとつは、ワインの品質と真正性が保証されることです。アン・プリムールで購入したワインは、シャトーのセラーから直接供給されるため、品質と真正性は疑う余地がありません。

 

シャトー・スミス・オー・ラフィット
シャトー・スミス・オー・ラフィット(Château Smith Haut Lafitte)のワインセラー。

 

バイヤーとして生産者から直接購入できるのは、非常に希少な機会だといえます。通常、有名シャトーは非常に限られたネゴシアン(Négociant)とだけ取引しており、これらのネゴシアンだけがボルドーの生産者から直接購入することができます。

 

※ 卸売業の意味。ワイン業界では、自身のブドウ畑を持たずにブドウを購入して醸造を行う生産者、樽やタンクでワインを買い付け、瓶詰め・販売を行う生産者を指す。

 

アン・プリムール取引により、シャトーは、ワインの早期販売で当面の資金調達を実現でき、ネゴシアンは、ワインをより効率的に流通させる貴重な時間を得られます。ネゴシアンは、輸入業者・小売業者・レストラン・ホテル・最終消費者などの世界中のバイヤーに再販することで、アン・プリムールのワインの流通の重要な役割を果たします。

 

ネゴシアンのおかげで、大手小売店のカタログには、数ヵ月後に現物で配送されるアン・プリムールのワインセレクションが掲載されるでしょう。それにより、ワイン愛好家や消費者はアン・プリムールを手にすることになります。

 

アン・プリムールでの購入は、ワインの産地・信頼性・品質が保証されていること、そしてなにより、ワインがボトル詰めされたあとよりも魅力的な価格で購入可能できるため、お勧めです。

 

また、数年間ご自身のワインセラーで寝かせる忍耐力があるなら、さらに購入のメリットは高まるといえるでしょう。

 

ご参考までに、筆者のお気に入りの2023年ヴィンテージのワインをいくつかご紹介します。

 

シャトー・ヴァランドロー

シャトー・デュアール・ミロン、シャトー・フィジャック

シャトー・ジスクール、シャトー・ラスコンブ

シャトー・モンローズ、シャトー・パヴィ

シャトー・スミス・オー・ラフィット

シャトー・スデュイロー、アロム・ド・パヴィ

アン・プリムール取引の流れ

アン・プリムール取引とは、ワインがボトルに詰められる前の段階、つまり樽での熟成中のワインを先に購入する方法です。この取引により、ヴィンテージワインが公式にリリースされる前に、ワインへ投資することが可能となります。

 

ブドウ(カベルネ・フラン:Cabernet Franc)の木。
ブドウ畑。ここはカベルネ・フラン(Cabernet Franc)が植えられている。

(1)収穫と熟成開始

夏から秋にかけてブドウを収穫し、発酵を行い、熟成を開始します。

 

(2)アン・プリムール・テイスティング

翌年の春には、熟成中のワインのテイスティングイベントが開催されます。このイベントでは、ワイン批評家やジャーナリストが熟成途中のワインを試飲し、熟成後のワインを想定して評価を行います。

 

(3)価格の発表と取引開始

各シャトーが売り出し価格を発表した後、ネゴシアンや輸入業者を通じてアン・プリムール取引が始まります。

 

(4)追加熟成

ワインはさらに18ヵ月から24ヵ月間熟成を続けます。

 

(5) 市場リリース

熟成が完了したワインはボトル詰めされ、一般市場にリリースされます。

ボルドーワイン取引の「多層的なサプライチェーン」

ボルドーワインの取引は多層的なサプライチェーンを通じて行われます。このサプライチェーンには、シャトーから消費者まで多くの中間業者が関与し、それぞれが中間マージンを取ることで、役割が明確化され、需給の調整が行われ、結果としてワインの価格が安定します。

 

[図表]ボルドーワイン取引のサプライチェーン

 

ワインは上流での取引価格の方が割安になりますが、一流のシャトーと直接取引ができるネゴシアンは多くのネゴシアンの中でもほんの一握りの数に限定されおり、人気のワインを確実に、かつ最も割安に入手できます。

 

 

スタニスラス・ダラモン
カルペ・ヴィヌム・ザ・クラブ共同創設者
伯爵

 

今田 尚孝
カルペ・ヴィヌム・ザ・クラブ
シニア・アドバイザー・ジャパン

 

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