家事・子育て・介護…笑顔で一手に引き受ける、自慢のタフな妻
佐藤さんの妻は、佐藤さんと結婚する前は同じ会社の別部署に勤務しており、社内の友人を介して知り合い、親しくなって結婚した。
妻は優しい控えめな性格で、よく気が付く人だと佐藤さんの親族からも評判は上々。
娘が成長して手が離れたら、近所のスーパーにパートへ。佐藤さんの帰宅に合わせて帰り、できたてを食べられるよう夕食を準備する。
佐藤さんの父親が「要介護3」になったときには、嫌がるそぶりもなく、佐藤さんの両親を自宅に引き取り、4年以上も献身的に面倒を見てくれた。
両親を見送り、娘が巣立ち、夫婦2人になった自宅は、いつもすみずみまで磨かれ、玄関にはかわいらしい花が活けてある。
佐藤さんは、そんなタフでデキる妻が仕切る家庭に満足し、誇らしく思っていた。
「オレは一体どうしたらいいんだ」「自分で考えたら!?」
厚生労働省『令和4年国民生活基礎調査』によると、要介護者に対して主な介護者の属性をみていくと、「同居する配偶者」が22.9%、続いて「同居する子」が16.2%、「別居の家族等」が11.8%、「同居する子の配偶者」5.4%。「事業者」は15.7%だった。
男女別では、主な介護者が同居の場合は「男性」が31.1%、「女性」が68.9%。別居の場合は「男性」が26.0%、「女性」が71.1%。「同居する子の配偶者」が介護するケースは少数ではあるものの、佐藤さんの妻のように「長男の嫁」が義親の介護をするというのは、昔からよくあるパターンなのだ。
佐藤さんの妻が介護をした舅は「要介護3」の認定を受けていたが、これは歩行器や車椅子が必要で、食事・歯磨き・入浴などの日常生活で全面的な介助を必要とするレベルだ。認知症の症状も見られることも多い。
前出の厚労省の調査によると、要介護3の場合の介護時間について「ほとんど終日」が最多で31.9%、「半日程度」が21.9%、「2~3時間程度」が11.5%、「必要なときに手をかす程度」が26.0%。介護サービスの利用状況にもよるが、相当大変であることが推測できる。
「どうして急に、こんな…」
「そういうところが、もうウンザリなのよ」
「不満があるなら、ハッキリ言ってくれればいいじゃないか!」
「どれだけ口を酸っぱくしていってきたと思ってるの!」
「オレは一体どうしたらいいんだ」
「そんなこと、自分の頭で考えたら!?」
呆然とする佐藤さんに、妻は、
「定年後まで、あなたの面倒を見るなんて、もうまっぴらなの。さよなら!」
そう言い残すと、迎えに来たタクシーに乗って去って行った。
想定外すぎる急展開に呆然、気持ちがまったくついていかない佐藤さん。思い描いていた定年後の生活から一転、あまりに厳しい見通しが広がる。
「そうだ、娘を訪ねてみるか…」
スマホを取り出し、眼鏡を指で額に押し上げた佐藤さん。再び、家族が笑顔で過ごせる日が来るのだろうか。
[参考資料]
厚生労働省『令和5年就労条件総合調査』
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