M&A仲介サービスの「利益相反」を原因とするトラブル
M&A仲介サービスにおいては、その構造上、業者が売り手、買い手の両者を差配できる立場であるがゆえに、顧客の利益より自己の利益を優先させる利益相反が生じるリスクが存在します。本来、売り手と買い手の両者を顧客とするM&A仲介会社は、中立の立場を維持しなければなりませんが、自己の利益を優先して、片方の顧客に肩入れして支援をしてしまうケースなども含まれます。
激しい営業競争が生むトラブル
M&A支援業者は、増加の一途を辿っており、業者間の営業競争は熾烈を極めています。そのなかで[図表3]のような、当事者を無視した倫理観に欠ける業者の行動が、トラブルとして報告されています。
M&A(合併・買収)の仲介サービスの利益相反問題は、これまで度々指摘されてきました。中小企業庁が設置する情報提供窓口へのM&A当事者からのトラブル報告が、後を絶ちません。中小企業庁の指導のもと、自主規制団体であるM&A仲介協会が旗振り役となり、業界の健全化を急いでいるところです。
M&A仲介サービスは、中立の立場で、売り手と買い手のマッチングを提供するサービスです。特定の当事者を保護し、利益を追求するサービスではありません。本来、求められる中立の立場を維持するためには、両者を差配できる立場にあるM&A仲介会社の担当者が、顧客の利益よりも、自己の利益を優先させることがないような防止策を講じていく必要があります。
しかしながら、現在のM&A仲介会社における「従業員の給与体系」は、トラブル発生を助長しているように思われます。M&A仲介業界では、基本給与が低い水準に設定され、成約1件につき数百万円、案件によっては1,000万円超のボーナスが支給される設計になっていることも少なくありません。
このような給与体系では、背に腹は代えられずに、担当者が自分のボーナスを優先させてしまうこともあるのではないでしょうか。その担当者に守るべき家族がいれば、なおさらのことです。
このような報酬設計は、中小M&A業界に優秀な営業マンを集めるという点では、非常にうまく機能してきましたが、M&A仲介サービスの利益相反問題を原因とするトラブルが止まないのであれば、業界全体として、行き過ぎた給与体系を見直すべきではないかと思考えます。
そもそも、M&A当事者の利益を保護する目的においては、売り手と買い手の双方を顧客として、中立の立場で支援をするM&A仲介サービスの構造には、限界があります。中長期的には、諸外国と同様、M&A当事者の立場に立った支援が可能なファイナンシャル・アドバイザリーサービスの普及が、期待されるところです。
ただ、仲介サービスの枠組みのなかで、短期的にトラブルを減らしていくうえでは、業界の給与体系に一定のルールを定めることが有効です。行き過ぎた給与体系が、M&Aの当事者と仲介業者との間の利益相反リスクを、顕在化させないための努力が必要です。
M&A仲介は常に「中立の立場」でのサービスを
仮に、M&A仲介協会の取り組みが功を奏し、中小M&A業界の健全化が進んだとしても、M&A仲介サービスは、あくまでも中立の立場で、売り手と買い手をマッチングするサービスであるということを理解して、活用しなければなりません。そうでなければ、利用者の「自分のメリットを考えた支援をしてほしい」というニーズと、M&A仲介が提供できるサービスの限界との間に、大きなギャップが生じてしまいます。
作田 隆吉
オーナーズ株式会社
代表取締役社長
【10/23開催】事業譲渡「失敗」の法則
M&A仲介会社に任せてはいけない理由
【関連記事】
■税務調査官「出身はどちらですか?」の真意…税務調査で“やり手の調査官”が聞いてくる「3つの質問」【税理士が解説】
■月22万円もらえるはずが…65歳・元会社員夫婦「年金ルール」知らず、想定外の年金減額「何かの間違いでは?」
■「もはや無法地帯」2億円・港区の超高級タワマンで起きている異変…世帯年収2000万円の男性が〈豊洲タワマンからの転居〉を大後悔するワケ
■「NISAで1,300万円消えた…。」銀行員のアドバイスで、退職金運用を始めた“年金25万円の60代夫婦”…年金に上乗せでゆとりの老後のはずが、一転、破産危機【FPが解説】
■「銀行員の助言どおり、祖母から年100万円ずつ生前贈与を受けました」→税務調査官「これは贈与になりません」…否認されないための4つのポイント【税理士が解説】