NISAの拡充で拍車がかかる投資ブーム。しかし、依然、金融リテラシーが低く、甘い投資の儲け話に騙されてしまう人はあとを絶ちません。本記事ではAさんの事例とともに、安易な投資の危険性について、長岡FP事務所代表の長岡理知氏が解説します。
令和にガラケー愛用・おにぎりは鮭一択・愛車は30年カローラ…変化を毛嫌う「年収550万円の55歳おひとり様」、アパート取り壊しで恐る恐る住宅購入→老後恐怖で「NISA」を始めて大惨事のワケ【FPが解説】 (※画像はイメージです/PIXTA)

わずか2.1年で解約…積み立て投資を続けられない人々

投資詐欺に騙されるのは極端としても、それよりももっと多くの家庭が陥っている事象があります。それは、家計の実情に見合わない金額の積み立て投資を始めてしまう人の存在です。

 

積み立て投資は20年以上の長期にわたる投資を続けることによって、安定した運用成績を出すことを想定しています。そのため、株価などが急落したときも積み立てを続けるべきとされます。ところが無計画な金額の投資を始めてしまったため、決まった額を毎月積み立てられない、あるいは途中で積み立てが困難になり解約してしまうという状態に陥るのです。

 

つみたてNISAを解約した人の平均保有期間は、わずか2.1年だったというデータがあります(QUICK資産運用研究所調べ)。2年ほどで解約したのは「利益確定のため」と推測するのは、金融リテラシーが高い金融業界の従事者でしょう。しかしFPとして数多くの世帯を見ていると、金融リテラシーが高いとは思えない解約理由が浮かび上がってきます。

 

「家計が厳しく、継続して積み立てるのが難しい」

「利益が出ているのでいっそのことやめることにした」

 

という声が非常に多いのです。言うまでもなく積み立て投資は毎月一定額を家計から「支出」します。それは普通預金とは異なり、原則的に引き出して生活費に充てることはできません。長期で運用するということは「支出」したお金は、今後もずっと生活費には使えないということです。

 

誰でもわかるはずの当たり前の話ですが、家計のキャッシュの流れを計算することもなく、思い付きの金額で積み立てを始める世帯が驚くほど多いのが実情です。その原因のひとつは、投資への本質的な理解の不足が挙げられます。

 

「友達が投資をしていて、運用成績が好調なのを自慢していたのを見て羨ましくなった」という、「投資=お得な情報」と勘違いした動機が非常に多く見られます。

 

金融資産が潤沢ではない会社員世帯にとっての投資とは、ライフプランに沿って検討し、必要であれば行うものです。人生において投資の明確な目的・目標・許容できるリスク度があり、それに応じて投資額を含めた方針を定めるべきです。「増えたら嬉しい」というだけの動機では、金融資産が潤沢ではない会社員世帯は手を出すべきではないでしょう。

 

ライフプランのうえで検討した結果、現金だけで十分な資産形成ができるため、投資のリスクを背負う必要がない場合もあります。あるいは積み立て投資をする余裕が家計にない場合もあります。

 

積み立て投資は長く続けなければ無意味とはわかっていても、家計簿をつけていない世帯が20年以上にわたって積み立てを続けることは難しいといえます。次頁からは、投資の優先順位を間違えてしまった事例をご紹介します。