“止まらない円安”のもと、現状判断DIは2.4ポイント低下
4月の『景気ウォッチャー調査』の回答期間は4月25日~4月30日です。調査期間中の大きな話題はなかなか歯止めがかからない円安動向でした。4月26日の日銀・金融政策決定会合後、円安はペースを速め、29日に一時1ドル=160円台と90年4月以来およそ34年ぶりの円安・ドル高水準を付けました。その後、政府・日銀による為替介入とみられる円買いで一時154円台まで戻したとはいえ、今もなお円相場の先安観はくすぶっている状況です。円安の進展、物価高への懸念などが、景況感を押し下げた感じがします。
地域別でみると北陸と甲信越だけ前月比上昇
4月の現状判断DI(季節調整値)は47.4と3月の49.8から2ヵ月連続で低下し、23年8月の45.5以来の低水準になりました。地域別にみても、1月の能登半島地震の被災地であり復興の動きが出ている北陸と甲信越だけが4月の前月比が上昇で、他の地域は低下しました。
内閣府が景気ウォッチャーの見方としてまとめた基調判断は、「景気は、緩やかな回復基調が続いているものの、このところ弱さがみられる。また、令和6年能登半島地震の影響もみられる。先行きについては、価格上昇の影響等を懸念しつつも、緩やかな回復が続くとみている。」と、1月~3月と比べてみると「一服感がみられる。」が「このところ弱さがみられる。」に差し替えられ、下方修正になりました。
「中国」「ロシア」「ウクライナ」「中東」などに関してのコメント数は少なく、現状判断に関してはコメント数ゼロの項目もあります。しかし、景気ウォッチャーの中には、「米国、ロシア、中国の大国間での不和は、世界中を巻き込む可能性がある。既に、ヨーロッパでは戦争前夜ともいわれている。景気が良くなるとはとてもいえない。」(南関東:ゴルフ場〔従業員〕)という先行き判断のコメントを出す人もいました。
「価格or物価」関連先行き判断DIは23年11月以来の低水準
現状判断DIは原数値でみても4月は50.2で3月の52.4から3ヵ月ぶりに低下しました。また、4月の先行き判断DI(季節調整値)は48.5で3月の51.2から2.7ポイント低下と、2ヵ月連続の低下になりました。22年12月の47.8以来の低い水準です。
4月の「為替」関連現状判断DIは45.1で3月の49.1から低下、コメントした景気ウォッチャーは82名で、3月の29名の2.8倍になりました。「やや悪くなった」と「悪くなった」の合計は全体の37%で3月の28%から高まりました。また4月の「為替」関連先行き判断DIは43.4で3月の51.9から低下、コメントした景気ウォッチャーは232名で、3月の166名の1.4倍になりました。「やや悪くなった」と「悪くなった」の合計は全体の37%で3月の26%から高まりました。
また、4月の「価格or物価」関連現状判断DIは43.0で3月の44.6から低下、コメントした景気ウォッチャーは208名で、3月の181名の1.1倍になりました。「やや悪くなった」と「悪くなった」の合計は全体の38%で3月の33%から高まりました。また4月の「価格or物価」関連先行き判断DIは42.8で3月の45.6から低下、コメントした景気ウォッチャーは335名で、3月の258名の1.3倍になりました。「やや悪くなった」と「悪くなった」の合計は全体の34%で3月の26%から高まりました。「来客数の減少傾向と、物価高騰による購買意欲の低下がみられるなか、政府の減税策も少額かつ即効性がないとみられ、しばらくこの状況が続くのではないかとみられる。」(四国:コンビニ〔店長〕)というコメントがありました。
「地震or震災」関連現状判断DI&コメント数は1月から改善
「地震or震災」関連現状判断DIを計算してみると、1月は全国で35.5となりました。地域ごとでみると、北陸は27.3、甲信越は30.6でした。2月では、全国が45.5と前月差10.0ポイント改善しました。地域ごとでみると、北陸は42.2、甲信越は37.5で、各々14.9ポイント、6.9ポイント改善しました。3月では、全国が48.0と前月差2.5ポイント改善しました。地域ごとでみると、北陸は52.5と前月差10.3ポイント改善しました。一方、甲信越は33.3で、4.2ポイント悪化しました。
4月では、全国が50.2と前月差2.2ポイント改善しました。地域ごとでみると、北陸は70.8と前月差18.3ポイント改善しました。甲信越の「地震or震災」関連現状判断DIは計算できませんでした。地震に関して触れた景気ウォッチャーはかなり少なくなってきました。北陸のコメント数は1月44名だったものが4月は12名に低下、甲信越は1月9名だったものが4月は0名です。
現状判断で「地震or震災」について触れた景気ウォッチャーの割合は、北陸では1月では49.8%とほぼ半数でしたが、2月では33.7%、3月では23.3%と4分の1未満に低下しました。一方、甲信越では、1月は10.1%と2桁に載せましたが、2月は4.5%、3月は3.4%に低下しました。4月では北陸は14.3%へ低下、甲信越では0.0%へ低下し、誰も能登半島地震に触れなくなりました。
「金利」の見方に関しては、「良い」と「悪い」が概ね同程度に
景気ウォッチャー調査で「金利」についてコメントしたのは2月では現状2名、先行き7名だけだったのが、3月は現状16名、先行き60名と一気に増えました。4月は現状5名、先行き22名に減少しました。なお、「利上げ」についてコメントしたのは「17年ぶりの利上げ」という使われ方がかなり散見された時期の3月調査でも現状0名、先行き2名で重複しないのは「やや良くなる」と答えた1人だけでした。4月では「変わらない」と答えた先行き1名だけでした。
3月の「金利」関連判断DIは現状53.1、先行き42.5になりました。「金利or利上げ」関連判断DIでは現状53.1、先行き43.0でした。4月の「金利」関連判断DIは現状45.0、先行き51.1になりました。「金利or利上げ」関連先行き判断DIも51.1でした。「金利」に関しては、「良い」とみる割合と、「悪い」とみる割合が概ね同程度になっているようです。
「賃上げ」は先行きの景況感の支援材料だが、期待感はやや鈍化
春闘の高い賃上げ率が実現した3月「賃上げ」関連DIは、現状が58.9で31名が回答し、先行きは56.2で141名が回答しました。4月「賃上げ」関連DIは、現状が49.1で29名が回答し、先行きは53.1で72名が回答しました。「賃上げ」をコスト増要因とみてマイナス材料にとらえる向きはあるものの、総じてみれば「賃上げ」は先行きの景況感の支援材料になっていますが、3月から4月にかけて期待感はやや鈍化したようです。
なお、4月「ボーナス」関連先行き判断DIは、14名がコメントし、60.7で期待感が高い内容になりました。
「新型コロナ」の先行き判断コメント数は7ヵ月ぶりに増加
4月の『景気ウォッチャー調査』で、「新型コロナウイルス」関連現状判断で51人がコメントし、DIを作ると56.9と3月の63.2から6.3ポイント低下となりました。先行き判断で45名がコメントし、「新型コロナウイルス」関連先行き判断DIは3月から0.1ポイント低下の62.8になりましたが3ヵ月連続の60台になりました。
コロナ禍が始まったばかりの2020年2月・3月には先行き判断で1,000名を超えるウォッチャーがコメントしていましたが、コメント数が23年10月に初めて83人と2ケタに低下し、11月で75人、12月で58人、24年1月62人、2月37人、3月は35人まで減少しました。「新型コロナウイルス」は景況感に大きく影響を与える材料ではなくなってきていると言えます。但し、新型コロナウイルスに感染する人はある程度の割合でいることもあり、4月は45人まで戻りました。
コロナ禍が始まったばかりの2020年2月・3月には先行き判断で1,000名を超えるウォッチャーがコメントしていましたが、コメント数が23年10月に初めて83人と2ケタに低下し、11月で75人、12月で58人、24年1月62人、2月37人、3月は35人まで減少しました。「新型コロナウイルス」は景況感に大きく影響を与える材料ではなくなってきていると言えます。但し、新型コロナウイルスに感染する人はある程度の割合でいることもあり、4月は45人まで戻りました。
「外国人orインバウンド」先行き判断は60割れも、50超を維持
3月の『景気ウォッチャー調査』で、「外国人orインバウンド」関連の現状判断DIは62.8と2月と横這い、3ヵ月連続60台で景況感押し上げ要因になりました。現状判断DIは、22年5月から続いている景気判断の分岐点50超が維持されています。
一方、先行き判断で「外国人orインバウンド」関連DIは、22年4月の46.9以来18ヵ月ぶりの50割れになった23年10月49.9から、上昇に転じ、11月58.1、12月60.4、24年1月61.4、2月64.1、3月は23年7月69.8以来の水準である67.6まで改善していましたが、4月は59.7で僅かですが60割れとなりました。
なお、「外国人orインバウンド」関連のコメント数は、新型コロナウイルスが流行していて外国人の入国が規制されていた時期は極めて少ない状況で、「外国人orインバウンド」関連の現状判断コメント数は、21年9月・10月は1名だけでした。23年6月から11月の6ヵ月は70名台・80名台の高水準でした。12月は65名と5月以来7ヵ月ぶりに60名台に低下したものの、24年1月は81名、2月は101名、3月は96名のあと、4月は113名と振れをともないつつ増加傾向にあります。高水準のDIとコメント数の多さで、「外国人orインバウンド」の景況感に与える影響が大きいことがわかります。
景気の下支え要因として「気温・応援割・北陸新幹線」に期待
桜の開花が、寒の戻りで概ね平年より遅れ4月にお花見となった地域が多かったせいか、「桜」関連現状判断DIは66.7でコメント数は12名と、景気判断の分岐点の50を大きく上回りました。「当地を舞台とするアニメ映画の公開と桜の開花が重なり、観光客が大幅に増えている。当店の売上も、酒や菓子などの地元商材を中心に増加している。」(北海道:スーパー〔役員〕)というコメントがありました。
今夏はパリ・オリンピックが開催されますが、「オリンピック」関連先行き判断DIは58.3でコメント数は3名と、2025年に開催される大阪「万博」関連先行き判断DIは60.0でコメント数が5名にとどまっていることと併せ、今のところ盛り上がりに欠ける状況です。
北陸地方を下支えする動きをみると、4月「応援割」関連DIは、現状判断は85.0、コメント数5名、先行き判断は66.7、コメント数3名となっています。また3月16日に金沢―敦賀間が開業した4月「北陸新幹線」関連関連DIは、現状判断64.3、コメント数7名、先行き判断は53.1、コメント数8名となっています。
「今年の夏はかなり暑くなるとの予想から、4月のエアコン販売も好調であった。今後、気温が上がるにつれて、エアコンや冷蔵庫といった高額商品の販売が増えるほか、ボーナス商戦の好調も加わることで、先行きには期待を持てる。」(近畿:家電量販店〔店員〕)というコメントがありました。「気温」関連先行き判断DIは65.5、回答数21名で、「気温」は現在、景気の下支え要因として期待されています。
※本投稿は情報提供を目的としており、金融取引などを提案するものではありません。
宅森 昭吉(景気探検家・エコノミスト)
三井銀行で東京支店勤務後エコノミスト業務。さくら証券発足時にチーフエコノミスト。さくら投信投資顧問、三井住友アセットマネジメント、三井住友DSアセットマネジメントでもチーフエコノミスト。23年4月からフリー。景気探検家として活動。現在、ESPフォーキャスト調査委員会委員等。