各社の企業文化(企業固有の受け継がれる意志・行動様式。理念・社是・社訓等を発信・体現し続けることで育まれる)は、ビジョン(未来のあるべき姿)、パーパス(ビジョンを何のために実現するかの解。目的・存在意義[レゾンデートル]・大義名分・錦の御旗等。パーパスのうち長期的なものはMTP[Massive Transformative Purposeと呼ぶ])、ウェイ([ビジョンをどのように実現するかの解。ミッション〈あるべき在り方〉、バリューズ〈価値観〉、アクションガイドライン〈行動指針〉・文化体現活動等])の観点から理念・社是・社訓等として自社固有の意志を抽象し、発信・体現し続けることで育んでいく。
各社の社名は、ブランド戦略を意識し検討していくことが基本だ。例えば、マスターブランド戦略を採用する場合は親会社のコーポレートブランドを活かし、全グループ会社に同一のブランド名を社名として付与し単一ブランドに基づき事業を展開していく。マルチブランド戦略を採用する場合は親会社のコーポレートブランドとは異なるブランド名を全グループ会社が社名として付与し同一カテゴリー内での複数ブランド展開等を企図する。サブブランド戦略を採用する場合はマスターブランド戦略とマルチブランド戦略のよいところをとり、各社の事業特性に応じコーポレート・ブランドを採用するか、個別ブランドを採用するかを選択しながら、事業を展開していくべく社名を検討していく。
各社の経営戦略は、ビジョン実現にむけた経営戦略ストーリー・評価の順に検討していく。
各社のコーポレートガバナンスは、所有と経営の観点から、株主等ステークホルダーの立場を踏まえた透明、公正、迅速・果断な経営を可能とする仕組みを検討していく。所有はベストオーナーの見極め、株主構成、株主総会の運営等の検討、経営は経営の監督を担う機関(上場企業の場合は指名委員会等設置会社、監査等委員会設置会社、監査役会設置会社のいずれかを選択)・取締役・取締役会・監査役・監査役会・委員会と経営の執行を担う執行役員制度の導入と執行会議等について検討する。エントレンチメント(経営者の保身)を防ぐ等、コーポレートガバナンスに期待される役割は大きい。
各社の所在地は、各社の役割に応じ検討していく。例えば、日本企業でもグローバルに事業展開している企業グループであれば、親会社の所在地を日本にしておくことがグループ全体をマネジメントするという観点においては最適解とはいえないかもしれない。また、ある事業領域では中長期的な業界の競争環境変化を見据えた場合、インドや中国等の新興国に所在地を移すべきといったことが考えられる。
各社の資本金は、各社の役割をまっとうするための必要最低額を基本に、資本金額に応じた会社法や税法上の扱いの違いを考慮し検討していく。例えば、通常、新規設立法人における消費税の納税義務は、基準期間の課税売上高が1,000万円を超えたかどうかで判定され、新規設立法人には基準期間の課税売上高がないため原則消費税の納税義務が免除される。しかし、資本金1,000万円以上の法人を新規設立した場合、基準期間がないとき(第1期・第2期)でも納税義務は免除されないため、資本金を999万円に設定する等が考えられる。
各社の決算期は、中長期における既存(コア)事業の事業管理に最適な月を選択することが基本だ。3月、12月を決算月に定める企業が多い。例えば、東証プライム市場に上場している企業では68%が3月決算、13%が12月決算と3月・12月決算で全体の80%超を占める。3月決算は日本の教育制度や財政制度に合わせるため多くなり、12月決算は海外売上高比率の高い国際企業が在外子会社の現地習慣に合わせるため多くなるといわれている。
各社の報告セグメントは、取締役やCEO等が構想した経営戦略を鑑み、経営上の意思決定や業績評価をするために最適な事業・業績管理区分を検討していくマネジメント・アプローチにて設計していくことが望ましい。
各社の現場の組織構造は、自社の企業価値最大化を実現し続けるために最適な平時の通常業務を担うライン部門と有事の非通常業務を担うタスクフォースを構想し組織図に落とし込む。ライン部門は各社の事業特性に応じ営業・製造・経理・人事等の機能ごとに部門を作り組織化する「機能別組織」、商品・地域・顧客等の軸で組織化する「事業部制組織」、機能別組織と事業部制組織をミックスした組織形態である「マトリックス組織」を基本とし検討する。タスクフォースは、企業価値最大化を実現し続けるためにCEO直下に組成される部隊であり、企業価値最大化経営の参謀役・リーダーシップサポート役となることが期待される。
澤 拓磨
株式会社TS&Co.創業者兼代表取締役グループCEO
経営変革プロフェッショナル
※本記事は『企業価値最大化経営』(日経BP 日本経済新聞出版)の一部を抜粋し、THE GOLD ONLINE編集部が本文を一部改変しております。