(※写真はイメージです/PIXTA)

本記事では『企業価値最大化経営』(日経BP 日本経済新聞出版)から、著者の株式会社TS&Co.創業者兼代表取締役グループCEO澤拓磨氏が「企業価値最大化経営の背景」について解説します。

企業価値最大化の4つの背景とは

企業価値最大化経営とは「企業価値最大化の実現を目標に定めた企業経営」のことだ。なお、企業価値を論じる際、現場において使用されることの多い用語、企業価値の「最大化」「極大化」「向上」と、「価値創造」「価値破壊」は、それぞれ下記の通り意味合いが異なるため注意してほしい。

 

・企業価値最大化:企業価値をある一定期間内における最大値に向上させること。

・企業価値極大化:企業価値をある一定期間内の限定された期間における最大値に向上させること。

・企業価値向上:企業価値を向上させること。

・価値創造:投資家の期待収益率(資本コスト)を上回る資本利益率を実現すること。典型的にはROIC(投下資本利益率)>WACC(加重平均資本コスト)で表される。

・価値破壊:投資家の期待収益率を下回る資本利益率であること。典型的にはROIC<WACCで表される。

 

企業価値最大化経営の目的は企業価値最大化であり、それには4つの背景がある。

 

1つ目は、経済の循環構造や企業の位置付け上、企業価値最大化経営の実践こそが、公器たる企業の本懐を最も果たしうる使命であるためである。この点において、企業価値最大化経営を実践する必要性については、法人擬制説(※1)、法人実在説(※2)どちらの立場で考えたとしてもその影響を受けない。

 

2つ目は、株式会社の仕組みとして、将来のリターンを期待し、投資対象会社の株式や債券に投資した株主・債権者の期待収益率を上回る企業価値を実現すべきためである。

 

3つ目は、企業価値最大化経営を実践し、企業価値最大化を実現した先に、CEOや株主は、①永続的企業価値最大化経営、②M&A、③IPO等の選択肢を能動的に選べる状態を得られるためである。

 

(※1)法人擬制説:法人とは、概念的存在で株主の資産である資本の集合体であり、株主の負託を受けた経営者が経営する機能体(ゲゼルシャフト)と捉える欧米的定義

(※2)法人実在説:法人とは、意志を持つ有機的な人の集団であり、代表取締役が代表として経営する共同体(ゲマインシャフト)と捉える日本的定義

 

4つ目は、2014年8月に経済産業省より公表された伊藤レポート(Ito Review)や、2010年代中盤以降に東京証券取引所より次々と公表された各種原則・提言(CGコード・スチュワードシップコード・「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応について」等)、近時増加傾向にある同意なき買収(敵対的TOB)や相次ぐオーナー経営者の高齢化に伴う事業承継型M&A、従業員への株式報酬制度の導入開始等の本邦企業経営界を取り巻く不可逆な時代の要請に自社を最適化していかなければならないためである。

 

なお、前述の4つの理由があろうとも、公器たる徳を保ちながら企業価値最大化経営を実践すべきであり、仮に公器たる徳に反してまで企業価値最大化経営の実践を優先しようとしても望む結果は得られないであろう。

 

例えば、近時の国際社会に大きな影響を与えているロシア・ウクライナ戦争を踏まえた国際企業各社の対応(一時撤退・完全撤退等)とその後の企業価値への影響を鑑みると、株式市場は公器たる徳のある正しい決断を下した企業への好感を示し当該企業の株価は継続的に上昇を続けている。

 

企業価値最大化経営が行われる期間は、ゴーイングコンサーンが前提であるが、主体者の属性によっては有期限となる場合もある(金融投資家の傘下企業等)。従って、企業価値最大化経営とは必ずしも一代のCEOのみで行われるものではない(二期4年の比較的短期でCEOが任期を終えることも多い日本企業であればなおさらである)。

 

企業価値最大化経営の主体者は、実務上、後述する「企業価値」が論点となる上場企業経営者・CEO、エクイティで資金調達を行った未上場企業経営者・CEO、M&A当事者、取締役会等である。

 

しかし、例えば、オーナー家や創業経営者が発行済み全株式を所有する未上場企業であり、M&A当事者でもない企業を経営するオーナー経営者でも、オーナーが期待リターンの源泉を企業価最大化に定め使命を企業価値最大化に求めていた場合、企業価値最大化経営の主体者となりうる。

 

こうした特徴を持つ企業価値最大化経営に必要な能力は、企業価値最大化を実現し続けるために必要な専門的能力全般となる。企業価値最大化の実現を目標に定めることで生じるこの点が、企業価値最大化経営と他経営を隔てる違いである。

 

2024年3月現在、本邦企業経営界において企業価値最大化経営は、上場企業の経営者・CEO、M&A関係者等の従前より「企業価値」に実務上接する機会の多かったステークホルダーの間でも、認知は得られているものの未だその実現確率や再現性を上げるための議論や実戦知が確立されているとはいえない。

 

しかしながら、環境は変化している。今こそ、本邦企業経営界全体として、企業価値最大化経営の実行力と読み(分析)・描き(構想)・そろばん(計画)能力の底上げを図る必要がある。

 

 

澤 拓磨

株式会社TS&Co.創業者兼代表取締役グループCEO

経営変革プロフェッショナル

 

※本記事は『企業価値最大化経営』(日経BP 日本経済新聞出版)の一部を抜粋し、THE GOLD ONLINE編集部が本文を一部改変しております。​

 

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