日本企業の生産性はまだ引き上げることができる
いま、日本ではさまざまなところで生産性の向上が語られ、それを実現するために、「AI」「EPA」「IoT」「DX」などの導入が急務である、などと言われているのですが、それは確かにそうだけれども、実は根本的な問題はそこにはないと、わたしは見ています。
というのも、全要素生産性で見ると、おしなべて日本企業の生産性が低いわけではないのです。一番の問題は、生産性が下がってしまった企業やビジネスがそのままの形で残っていることによって、全体の足を引っ張っていることにあります。
全要素生産性という、あまり聞き慣れない言葉があります。簡単に説明しておきましょう。
生産性は前述したように「投入量と産出量の比率」を意味します。そして、この生産性は大きく「労働生産性」「資本生産性」「全要素生産性」の3つに分けられます。
労働生産性は、労働力の投入に対して産出された量の比率です。資本生産性は、機械や設備などの資本の投入量に対して産出された量の比率です。
そして、生産量を増やすためには、労働投入量と資本投入量を増やすことで実現できるのですが、ここにはまだ技術力の進化など、生産量を増やすうえで貢献していると思われる他の要素が加味されていません。
そこで、労働や資本だけではない、他の要素も加味した投入量に対する産出量の比率として「全要素生産性」があるのです。
ちなみに労働や資本以外で、全要素生産性を算出するのに用いられている要素には、経営戦略やブランド戦略、技術革新、知的資産および無形資産の有効活用、労働能力の向上などがあります。
こうしたさまざまな要素のうち、日本と米国の生産性の違いを分析すると、最大の違いは市場からの「退出」にあるのです。
前述したように、生産性が大きく落ち込んだ企業が退出せず、マイナスの生産性を引きずったままゾンビ企業として残っているため、全体の生産性が落ちてしまうのです。
これが米国だと、生産性が落ちた企業はどんどん退出を強いられるようになっているため、そこにあったさまざまな生産要素を、他の新しい企業などによって再利用され、より生産性を高める方向で用いられます。
たとえば退出させられた企業で働いていた人たちが、他の、より生産性の高い企業に再就職して働くといったような話です。
ちなみに全要素生産性の各要素について、日米比較をすると、この退出が少ないという1点で、日米の生産性の8割方が説明できてしまう、という分析結果もあるくらいなのです。
ということは、やりようによってはまだまだ日本企業の生産性は、相当程度まで引き上げられるということです。
松本 大
マネックスグループ会長
※本記事は『松本大の資本市場立国論』(東洋経済新報社)の一部を抜粋し、THE GOLD ONLINE編集部が本文を一部改変しております。
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