男性も女性も、未婚率は年々増える傾向にあります。多様性の時代となり、人によっていろいろな生き方が尊重されるなか、おひとり様の老後で気になるのは「お金」の問題です。なかには、目の前の生活もままならず、生活保護を申請する人もいます。しかし、生活が苦しくてもそう簡単には申請が認められない現実があり……。本記事では、山谷さん(仮名/68歳)の事例とともに老後の資金設計の注意点について、FP事務所MoneySmith代表の吉野裕一氏が解説します。
68歳で失業した貯金ゼロのおひとり様男性、収入は“年金月6万円のみ”…「もう限界」でも、生活保護申請を断られたワケ【FPが解説】 (※写真はイメージです/PIXTA)

若いうちからの準備が必要になってくる時代

今回の山谷さんは、ずっと国民年金だけに加入していたことで、65歳からの年金は受け取れたものの、必要な生活費には足りないため、老後の生活が不安な状態になっています。

 

総務省の令和4年の家計調査でも、65歳以上の単身世帯の消費支出は月に14万9,208円となっています。

 

山谷さんが働いていたときには、年金と合わせて月16万円の収入があったので、贅沢はできないものの生活ができていたことがわかりますが、仕事がなくなったことで、月9万円の不足となりました。貯蓄もほとんどなかったことで、9万円を補うのには苦労することになります。

 

今回のケースでは、勤めていた店の閉店による失業だったので、失業保険申請を行うことで、待機期間なしで失業保険を受け取ることができることに。山谷さんはこれから自分に合った働き先を見つけることになります。

 

また、山谷さんの母親は94歳でひとり暮らしをしていました。今回のことをきっかけに家賃が必要なくなることや母親の面倒もみるということで、実家に帰ることになりました。

 

生活保護は基本生活費以下で、財産や頼れる親族がない場合に、認定されることになりますが、山谷さんは実家に戻れることや、高齢とはいえ母親とふたり暮らしになることなどで、今後も生活保護の認定は難しい可能性があります。

 

公的年金等の収入金額やその他の所得が一定基準額以下の年金受給者を助ける「年金生活者支援給付金」

ハローワークで仕事が見つかればいいのですが、仕事が見つからない場合は、「年金生活者支援給付金」を受け取ることができる可能性があります。

 

「年金生活者支援給付金」は前年の収入が一定額以下の場合に、支給される給付金で、令和5年4月以降では、月額で5,140円×保険料納付済期間÷480月と保険料免除期間があれば、1万1,041円×保険料免除期間÷480月が合算されて支給されます

 

令和4年の家計調査では、二人以上世帯の65歳以上の無職世帯の実収入は24万8,358円ですが、実支出は27万1,524円と毎月2万3,166円の不足となっています。

 

現在の日本の年金制度ではマクロ経済スライドという方式が採られています。この制度は、物価や賃金の上昇を考慮して年金額を変動させますが、その後、年金加入者や長寿化を加味した調整が行われることにより、物価や賃金上昇より低い変動率となることで、年金が実質で目減りする制度となっています。

 

昔は、老後は年金を受け取ってのんびりと暮らすというイメージがあったかもしれませんが、いまは、年金だけでは老後の生活費の不足が出てくることになり、若いうちから自助努力で老後のための資金を準備することなどが必要です。

 

とはいえ現行の制度だけを見ていると、将来の改正などがあったときに、対応できないということも考えられます。人生100年時代といわれるようになった昨今、老後生活までを見据えた人生設計をできる限り早いうちから考えましょう。

 


 

吉野 裕一

FP事務所MoneySmith

代表