資産家の家庭出身の女性が相続していた、多額の遺産
今回の相談者は、40代の専業主婦の鈴木さんです。自分が亡くなったあとの相続について懸念があるということで、筆者の元に訪れました。
鈴木さんは現在、深刻な病気を患っており、余命半年の宣告を受けています。
「私と夫のところには、残念ながら子どもができませんでした。私には妹がいますので、相続人は夫と妹だと理解していますが、妹に渡る財産はわずかですよね…」
鈴木さんは勤務先の上司だったいまの夫と結婚。鈴木さんは初婚でしたが、夫は再婚で、先妻との間に2人の子どもがいます。
鈴木さんの両親はすでに亡くなっていますが、両親ともそれなりの資産を保有していたことから、鈴木さんと妹はそれぞれ1億円超の遺産を相続しています。
「両親から相続した財産として、私は世田谷区の賃貸アパート1棟と小さめの貸駐車場、妹は同じエリアにある自宅と広めの貸駐車場、それ以外に数千万円の預貯金を半分ずつ分けました」
鈴木さんは相続した不動産から毎月数十万円の収入を得ています。鈴木さんも妹も堅実なタイプで、遺産を浪費することも持て余すこともなく、しっかり維持・管理してきました。
「両親からは〈人生は何があるかわからないから、とにかく堅実に〉と、ことあるごとに聞かされてきましたので…」
両親亡きあと、鈴木さんと妹は30代半ばで結婚。妹夫婦は2人の子どもに恵まれましたが、鈴木さんは子どもを望んだものの恵まれませんでした。
偶然耳にした、夫の電話のやりとり
鈴木さんと夫の関係は決して悪くありませんでした。しかし、あることをきっかけに、夫に不信感を抱き、財産を残すのがためらわれるようになったといいます。
「去年、私の病気が判明して余命宣告を受けたときは、夫もかなりショックを受けた様子で、医師の前で泣き崩れるなど、ひどく取り乱していました。私自身もとてもつらかったのですが…」
ショックを受けた鈴木さん夫婦も次第に状況を受け入れ、生活ペースも落ち着き、鈴木さんは治療に専念する日が続きました。
ところがある日、鈴木さんの前の患者が連続でキャンセルになったため、鈴木さんの診察が繰り上がり、予定より2時間も早く自宅に戻ったところ、夫はだれかと電話している最中でした。
「電話の相手は夫の子どものようでした。申し訳ないのですが、つい聞き耳を立ててしまったのです。どうやら、子どもが海外のある有名大学に入学したいといっていて、それにたいして〈心配ないよ、パパが学費を全部出してあげる〉と…」
鈴木さんの夫は、中堅企業の管理職ですが、海外の大学の学費の捻出と卒業までの仕送りができるほど給料は高くなく、それほどの貯金もあるとは思えません。
「子どもが高校を卒業するのは2年後です。それってつまり…」
鈴木さんは、夫の子どもたちに会ったことはなく、他人という認識しかありません。
「とてもショックでしたし、強い不信感を覚えました。でも、夫には一切いえませんでしたね。子どもがいる人と結婚するって、きっとこういうことなのでしょう」
鈴木さんは夫に気づかれないようにそっと家を出て、しばらく喫茶店で時間をつぶして戻りました。
帰宅後、落ち込んだ様子の鈴木さんを夫は心配し、あれこれ世話を焼いてくれましたが、鈴木さんは別のことを考えていました。
「両親が私と妹に残してくれた財産のことです。顔も知らない夫の子どもではなく、血のつながった妹とその子どもたちに渡したい…」
しかし、この状況で離婚を申し出て、実現までもっていくエネルギーはないといいます。
「両親から相続した財産はすべて妹に相続させる」
筆者と提携先の税理士は鈴木さんの心情を伺い、遺言書の作成をお勧めしました。
なにも対策を立てないと、相続の割合は夫が4分の3、妹が4分の1となり、鈴木さんが懸念する通り、財産の大部分が夫のものとなります。
鈴木さんが作成した遺言書は「両親から相続した財産のすべては妹に相続させる。それ以外の財産は夫に相続させる」とし、付言事項としてこれまでの感謝とともに「親からもらった財産を血縁者に渡したいとの思いを理解してほしい」と書き添えました。
「私がこれまで貯めたお金と、結婚のときに加入した生命保険で、夫には納得してもらおうと思います。両親からもらった不動産と預貯金は、妹や妹の子どもたちに継いでもらいたい…」
鈴木さん亡きあと、夫が鈴木さんの妹に遺留分侵害額の請求をするかどうかはわかりません。しかし、鈴木さんは遺言書作成後「心が落ち着きました」「夫は納得してくれると思います」といって、安堵の表情を浮かべました。
遺産配分の口約束は意味をなさない
子どもがいない夫婦の相続は要注意であり、鈴木さんのケースはまさに典型例だといえます。遺言書を残さなければ、相続人は配偶者と被相続人の親族(親が存命なら親、親が亡くなっていたら、きょうだい・甥姪)ですが、最も相続分が大きいのは配偶者です。
被相続人の配偶者に相続された財産は、いずれ配偶者の親族へと相続されていき、被相続人の家系には戻りません。
また、よくあるのが、口約束による遺産配分のトラブルです。もし鈴木さんが口頭で夫と妹に希望と伝え、全員が了承しても、配偶者の相続分は法定割合で決まっていますから、口約束を反故にしたところで、妹は文句をいえません。確実に妹へ相続させるには、口約束ではだめなのです。
相続は十分な対策が必要です。
※登場人物は仮名です。プライバシーに配慮し、実際の相談内容と変えている部分があります。
曽根 惠子
株式会社夢相続代表取締役
公認不動産コンサルティングマスター
相続対策専門士
◆相続対策専門士とは?◆
公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp) 認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。
「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。
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