(※写真はイメージです/PIXTA)

※本稿は、シニアマーケットストラテジスト・久髙一也氏(三井住友DSアセットマネジメント株式会社)による寄稿です。

【ポイント1】トヨタグループ各社が持ち合い株の売却を発表

■2023年11月29日、自動車部品メーカー大手のデンソーは、トヨタグループを中心とした政策保有株式(以下、政策株)の縮減方針を明らかにし、同社が保有するアイシン株や豊田自動織機株などの特定投資株式の一部(保有時価約5,200億円、2023年9月末時点)を対象に、保有縮減を進めるとしました。

 

■同日、トヨタ自動車、豊田自動織機、アイシンの3社がそれぞれ保有するデンソー株の持ち分の一部を売却することが明らかになるとともに、デンソーは資本コストを意識した株主還元などを念頭に、上限2,000億円の自己株取得の方針を明らかにしました。

 

■これに先立つ11月1日、トヨタ自動車は2023年度中間決算説明会において、資本戦略の一環として、政策株の縮減継続に加え、グループ株式の持ち合い見直しを明示していました。これら一連の動きは、トヨタグループの持ち合い株解消に向けた前向きなアクションとして、株式市場において注目を浴びました。

 

[図表1]トヨタグループ各社の株価推移

【ポイント2】持ち合い株解消は資本効率の改善、企業価値向上に貢献

■日本株が「敬遠される」理由の一つは、日本企業の資本効率の低さ、すなわち自己資本利益率(ROE)の低さとも言われています。

 

■企業間で相互に政策株を持ち合うという、日本特有の慣習は、取引関係の強化や買収防衛など、経営を安定させるための手段として用いられてきましたが、株式市場ではコーポレートガバナンス(企業統治)の低下につながると指摘されてきました。

 

[図表2]主要国市場の実績ROE推移

 

■2015年6月に東京証券取引所(以下、東証)と金融庁がコーポレートガバナンス・コード(企業統治指針)を制定し、上場企業に政策株の保有理由の説明を求めました。また、2019年3月期決算に関する有価証券報告書から、企業は政策株の定量的な保有効果や持ち合いの有無などの記載が求められました。

 

■東証が公表した「2022年度株式分布調査」によれば、2022年度の事業法人等の株式保有比率は19.6%となり、1970年度以降で初めて20%を割り込みました。2019年度の22.3%から3年連続の低下となり、上場企業の持ち合い株解消が進んでいることが窺えます。

 

[図表3]投資部門別株式保有比率の推移

 

■東証は全上場企業に対し、資本コストやROEを意識した経営を要請し、企業は持ち合い株解消に取り組んでいます。東証は2024年1月15日から、要請に基づき開示している企業の一覧表を毎月公表する予定であり、日本企業の前向きな行動変容につながるかに注目です。

【今後の展開】日本株上昇の原動力に

■企業が政策株の売却を進めることは、より収益性の高い投資を通じた利益率向上や、積極的な株主還元の強化(増配・自社株買い拡大など)につながります。ROEの向上を通じ、株価純資産倍率(PBR)や株価上昇につながると期待されます。とりわけ、低PBRの企業はROEが低く、株主から変革を求めるプレッシャーが強まる傾向があります。実際、2023年に入り、海外アクティビストなど「物言う株主」による株主提案や、経営陣によるMBO(マネジメント・バイアウト)が増加傾向にあります。

 

■今回のトヨタグループの前向きなアクションをきっかけとして、日本企業の持ち合い株解消と資本効率改善が進み、日本株上昇の原動力になることが期待されます。

 

[図表4]主要国市場の実績PBR推移

 

(2023年12月8日)

 

※個別銘柄に言及していますが、当該銘柄を推奨するものではありません。

※当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『トヨタグループ各社が「持ち合い株解消」へ 日本株上昇の原動力になることが期待【シニアマーケットストラテジストが解説】』を参照)。

 

久髙 一也

三井住友DSアセットマネジメント株式会社

シニアマーケットストラテジスト

 

 

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