OECD加盟38ヵ国で日本だけが「賃金下落」
♦日本人の「平均年収」の問題点
日本人の賃金は下がり続けています。[図表3]のOECD(経済協力開発機構)がまとめた平均年収の表を見ると一目瞭然です。平均年収は米国やルクセンブルクなどが7万ドル台と高い一方、日本は約4万ドル台に留まっています。
過去20年間で賃金が下落した国は、OECD加盟38ヵ国で、日本だけでした。かつて1990年代初頭には、米国に次ぐ世界第2位の賃金の高さを記録した日本なのに、今はこんな厳しい状態なのです。
日本で賃金が一番高かったのは1997年ですが、この年はバブル崩壊の不良債権処理が長引くなかで金融危機が発生し、金融機関の破綻が相次ぎました。そこから恒常的な「デフレ」に陥り、デフレは物価を下げるとともに賃金にも「下押し圧力」を働かせました。また、前述のように、1990年のバブル崩壊以降、日本では低賃金の非正規雇用の労働者が増えていき、その比率は今や労働者の4割近くにも及びます。コロナ禍になる前までは生産労働者の減少もあり、人手不足も叫ばれましたが、経済学の教科書通りにはならず、企業は正規雇用(正社員)の採用には極めて慎重だったのです。
賃金の上がらない理由は、いろいろ挙げられますが、大企業がバブル崩壊以降、人件費に警戒心を強め、執拗に賃金アップを抑制してきたのが大きな原因です([図表4]参照)。
2022年度の企業の内部留保額が約555兆円の過去最高額に膨らんだことや、労働分配率の低下を見ても明らかなのです。
◆内部留保を貯め込む大手企業
内部留保とは、企業の純利益から税金や配当、役員賞与などを引いた残りで、「利益剰余金」「利益準備金」と呼ばれるものです。いわば「企業の儲けの蓄積」なのです。
また、アベノミクスの円安効果で、輸出大企業ほど円換算の儲けが増え、輸出売上げは「消費税率0%」(かからないということ)ですから、結果として仕入れの消費税分が還付されます。「戻し税」といわれるものです。大企業の場合、輸出の売上げが巨額になるので「戻し税」は10兆円にも及びます。政権与党への大企業からの政治献金が、大企業優遇の政策につながるとの指摘もあります。
賃金が伸び悩むと消費はさらに冷え込みます。インフレによる物価高が続くと、経済成長も望めません。日本は約25年前の賃金と比較すると上昇するどころか、下落しているのが実態なのです。「低賃金」では働いても幸せになれません。
神樹 兵輔
経済アナリスト
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