日本の少子化問題は「2030年まで」が勝負
日本の経済・社会が抱える大きな課題の一つは、人口が減っていくことが確定している、ということでしょう。もとより少子高齢化とは言われていたものの、コロナ禍で婚姻数自体も減ったことから、少子化がさらに加速することが確定してしまいました。
岸田政権が閣議決定した「こども未来戦略方針」の中には、2030年までに少子化トレンドを反転できなければ終わりであるとの旨が書かれており、岸田氏自身も「ラストチャンス」という言葉を使っています。
しかし、本当に2030年までに少子化対策を成功させられるのでしょうか。
少子化の大きな要因は「経済的な不安」
まず、なぜ少子化が進んでいるのかを考えてみましょう。
晩婚化や単身世帯の増加を指摘して「価値観の変化である」と述べる人もいますが、過去のアンケート調査を見ても、30年前に比べて結婚願望を持つ人が明らかに減少したとか、夫婦が希望する子どもの数が減ったなどというデータは確認できませんでした。よって、「価値観の変化」だけですべてを説明することはできません。
では、なぜ結婚しないのか、なぜ子どもをつくらないのか。大きな要因の一つとして挙げられているのが、「経済的な不安」です。
これは筆者の専門分野ではありませんが、よく「日本人は、子どもをつくる前の段階から“子どもができた後”のことをかなり考える」と言われています。
“この国はこうだ”とひと括りにするのはあまりよくないかもしれませんが、例えば欧米では「(結果的に)子どもができてしまった」という事例が珍しくない一方で、日本ではそれを良しとしない風潮があり、そもそも子どもができていないにもかかわらず、子どもができた場合のことを先に考えてしまいます。今の世の中では「物価が上がっている中で、果たして自分が子どもを不自由なく育てることはできるのか?」という不安が先行してしまい、結果として子どもをつくりません。
「少子化対策のため」と言いつつ手取りを減らす本末転倒ぶり
経済が成長していないということは、当然、賃金も伸びるわけがありません。これが少子化の背景にある問題なのですから、これを直せばよいのです。経済的不安が原因なのであれば、「経済的不安を取り除いてあげれば、子どもをつくる人たちも増える」というとてもシンプルな解決策がわかっているわけです。
ところが現政権がやろうとしている方法は、これに逆行しています。「少子化対策を行うには財源が必要である⇒財源がないので社会保険料を引き上げる」という選択をし、経団連も消費税の引き上げを提言しています。
社会保険料を上げるということは、シンプルに考えて「給与の手取りが下がる」ということです。経済的不安があるから子どもをつくれないと言っているのに、さらに手取りを減らしてどうするのでしょうか。
生きていく以上、消費は絶対に避けられません。贅沢品は買わなくても生きていけますが、食品は必須です。消費の際にかかる税金を上げるということは、経済的余力をさらに減らすということです。現政権がやろうとしていることは、少子化対策を謳ってはいるものの、筆者から見れば「少子化“政策”」です。
現状の少子化対策では「ラストチャンス」を逃すのみ
現政権が「少子化対策」として掲げている方法では、2030年までに成功する確率は低いと考えておいたほうがよいでしょう。
もちろん、実際に現状の少子化対策がうまくいくかどうかは誰にもわかりません。しかし結局、親の目線で見るときは、悪いシナリオ(=2030年までに少子化対策がうまくいかなかった場合)に立って子育てをしたほうがよいと考えています。悪いことが起こるという前提で考えれば、備えておくことができるからです。もし、たまたま少子化対策がうまくいって2030年以降の日本は人口が増えていくという流れになれば、それは単に嬉しい誤算です。
日本が辿る「悪いシナリオ」
まず、さまざま要因から、ほぼ確実に人が減ります。人が減るということは、基本的に経済は成長しづらくなります。
よく「人が減ると経済は成長しない」と言う方もいますが、これは間違いです。「人が減る、だから経済成長しない」というわけではなく、減っても成長することは考えられます。
「人が増えたほうが、経済成長する確率は上がる」という事実がありますから、減ることがほぼ確定している以上、あまり日本経済に明るい未来を持つことはできないというのが正直なところです。備えるためにも、そうした見方は持たないほうがよいでしょう。
これが筆者から見た大雑把な未来予想図です。
人口減少下の日本が経済成長していくための「選択」
まずは人が減る前提で、「悪いシナリオ」で考えていくことが大切です。とはいえ、「人は減っていくから日本はもうおしまいです」と諦めるわけにはいきませんから、人が減る中でどうやって経済を伸ばしていくかを考えていくことになります。恐らくAIの利用やロボットによる自動化、つまり、人がいなくてもロボットが回してくれるという方向へ舵を切ることになるでしょう。
「移民」という選択肢もありますが、筆者は安易な移民政策には反対です。なぜなら私たちは、ヨーロッパなどの先に移民政策をとった国々の治安が悪化していく様子をさんざん見てきたからです。
もし「移民政策をとるべきではない。それでも、人口が増えない中で経済を成長させるには」と考えると、やはりAIやロボティクスを重視する流れになり、モノづくり大国としての日本や細やかな技術開発が得意な国民性からも、恐らくそちらに舵を切らざるを得ないでしょう。これが、ざっくりと10年~30年くらいのスパンで見た際の、筆者の経済社会予測です。
森永 康平
金融教育ベンチャーの株式会社マネネCEO、経済アナリスト
1985年、埼玉県生まれ。明治大学卒業後、証券会社や運用会社にてアナリスト、ストラテジストとしてリサーチ業務に従事。その後はインドネシア、台湾、マレーシアなどアジア各国にて法人や新規事業を立ち上げ、各社のCEOおよび取締役を歴任。現在は複数のベンチャー企業のCOOやCFOも兼任している。日本証券アナリスト協会検定会員