前回は、競売物件、任意売却物件が安い理由について取り上げました。今回は、競売物件、ローン破綻者が減少した要因について見ていきます。

一時的に破綻を見送る延命措置!?「金融円滑化法」

金融円滑化法というのは、2009年12月3日に施行された法律です。銀行などの金融機関は、この法律に基づいて企業に対しても、個人に対しても、一時的に破綻を見送る“延命措置”を実施しました。この法案自体は、2013年3月末で期限を迎えましたが、その後も金融機関が中小企業のローン延滞者や住宅ローン滞納者に対して、強制的に不良債権を処理していく姿勢をとっていません。

 

金融機関も、一度にローン破綻者を出したくない、というのが本音と思われますが、金融円滑化法によって、ローン滞納者が多数救われているのは事実です。実際に、「競売物件」の新規申請件数の推移を見ると、以下のようになっています。

 

・2010年度(平成22年度)・・・2754件(強制競売)・3万7909件(不動産の担保権の実行)

・2011年度(平成23年度)・・・2398件(強制競売)・3万1285件(不動産の担保権の実行)

・2012年度(平成24年度)・・・2292件(強制競売)・2万6069件(不動産の担保権の実行)

 

競売物件というのは、たとえばあなたが住宅ローンを返済している途中で、何らかの事情があって、住宅ローンを滞納してしまった場合、銀行は督促状を出すなど、様々な措置を取ってくることになります。それでも払ってもらえないときには、最終手段として裁判所に申請して、裁判所によって強制的に住宅を売却し、ローンを清算する手続きを取ります。裁判所が強制的に住宅をオークションにかけて売却する方法が「競売」というわけです。

 

ローン破綻者が多い場合は、当然ながら「競売」が増えることになります。その競売件数が、ここ数年減少しているということは、それだけ住宅ローン破綻者が減少していることを意味しています。

 

つまり、現在の不動産市場というのは、リーマン・ショック以降の経済危機が原因で、ローン破綻者が一時的に増えたものの、その対策として導入した金融円滑化法が、ローン破綻者の増加を防いできたというわけです。

任意売却で競売を回避することも可能

ところが、ローン破綻=競売が減少したのには、もうひとつの原因があります。

 

競売を回避する数少ない方法のひとつに「任意売却」という方法があり、その任意売却が増えているのです。本連載のテーマでもある任意売却ですが、近年徐々に増えつつあり、その結果として競売が減少しているというわけです。

 

任意売却というのは、裁判所に債権者から競売の申請があって、実際に入札が始まってしまうまでのわずかな期間に、債権者(金融機関)の了解を得て、市場などを通じて一般的な方法で売却する方法のことです。ここ数年は、この任意売却件数が増えて競売が回避されている状態と言っていいでしょう。

 

実際に、首都圏の不動産競売数が大きく減少している、というデータがあります。三友システムアプレイザルの調査によると、2013年度下半期に行われた関東4地域(東京、横浜、さいたま、千葉の各地方裁判所)の競売開札件数は、前期比7.1%減の4288件。09年上期をピークとして9期連続のマイナスだそうです。

 

こうした背景を、業界紙である「週刊住宅」は以下のように指摘しています。

 

①金融円滑化法の施行・・・施行とともに大きく競売件数が減少。さらに終了後も金融機関がローンの返済方法などの条件変更に柔軟に応じている。

②任意売却の増加・・・競売取り下げ件数は、件数全体の18.0%(東京地裁)にも達している。

 

アベノミクスによる景気回復や東京オリンピック開催によって、不動産市場では中古マンションの需要が高まり、住宅ローンの支払いが困難な世帯に直接アプローチして、任意売却を進める動きなどもある、と同紙は指摘しています。

 

実際に、「中古マンション」市場の平均価格は2013年1年間で、2.48%(首都圏中古マンション価格の平均価格、東日本不動産流通機構の資料から算出)上昇しており、任意売却が増える要因のひとつになっています。今後、アベノミクスが成功して、経済が復活すれば、不動産価格が上昇し任意売却がさらに増えるかもしれません。

本連載は、2014年10月10日刊行の書籍『任意売却物件ではじめるローリスク不動産投資』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

任意売却物件ではじめる ローリスク不動産投資

任意売却物件ではじめる ローリスク不動産投資

安田 裕次

幻冬舎メディアコンサルティング

サラリーマンが副収入を得る方法として注目を集める不動産投資。しかし不動産は決して安いわけではありません。 初期費用がかかるほどリスクは高くなるため、不動産投資の基本はできるだけ安価で条件の良い物件を探し出すこと…

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