労働者の時間外労働時間に上限規制、5年の猶予期間も終了に
働き方改革関連法施行により、2019年4月から、労働者の時間外労働時間に上限規制が導入されました。こちらについて、建設業、医師、自動車運転業務、沖縄・鹿児島の製糖業には5年の猶予期間が設定されていましたが、2024年3月には終了となり、2024年4月から、上記業種にも時間外労働の上限規制等が適用されることになります。
猶予期間が設定されていた業界では、現在、法律順守のための対応に追われています。
一般に、労働者の時間外労働の上限は、原則、年間360時間ですが、それを720時間まで延ばすことができます。
他方、自動車運転業務においては、労働者の時間外労働の上限は、2024年4月からは最大で年間960時間になります。いままで、自動車運転業務においては、時間外労働の上限規制が適用されることはなかったため、使用者側及び労働者側双方にとっても、今後の勤務時間の管理には、より一層注意を支払う必要があります。
また、時間外労働の規制に違反すると、「6箇月以下の懲役または30万円以下の罰金」に処せられる恐れがあり、刑事罰を課されるリスクがあります。
物流(運送業務)の規制と、従来の働き方に内在する「問題」
以上が、労働法制による上限規制ですが、物流(運送業務)にはその他にも遵守しなければならない基準があります。それが、「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準(改善基準告示)」です。
この基準は、ドライバーの労働時間を改善するためのルールですが、改善基準告示も改正され、その改正された基準が2024年4月から適用されます。
改正となる主な点は、以下のとおりです。
【1年の拘束時間(年換算)】
改正前:3516時間
→ 改正後:原則3300時間(最大3400時間)
【1カ月の拘束時間(月換算)】
改正前:原則293時間(最大320時間)
→ 改正後:原則284時間(最大310時間)
【1日の休息期間】
改正前:継続8時間
→ 改正後:継続11時間を基本とし、9時間を下回らない
【運転時間】
改正後:2日平均1日 9時間以内 / 2週平均1週 44時間以内
【連続運転時間】
原則 4時間以内
改善基準告示には罰則はありませんが、2024年4月以降は、違反事業者は業務停止や運行停止の重い行政処分が下されることになります。
また、物流事業者の法令違反行為に荷主の関与が判明した場合、荷主勧告や荷主名の公表等が行われることになり、影響は荷主にも波及する恐れがあります。
このように、2024年問題は、物流(運送業務)に多大な影響を与えますが、問題の解決は容易ではありません。
トラックドライバーが高齢化していることに加え、物流(運送業務)が人手不足となっていることから、残業時間が嵩んでしまう構造的な問題があるからです。とくに長距離輸送を行う運送業では、長時間労働が発生しやすいといえます。
荷主業者や一般消費者への影響も…
以上のとおり、2024年4月以降は、従前通りの業務を行うことができなくなり、事業を継続すること自体が困難になりかねません。
また、必然的に運送量が減少することになり、運送業者の売上や利益の減少をもたらす可能性が高いでしょう。もしここで運送料金を上げても、他社が値上げをしなければ、そちらへ仕事を奪われることになり、従前の取引の継続が困難になるリスクは高くなります。もちろん、残業代が減少すれば、トラックドライバーの給与も減少します。
これらの運送業者への影響は、物流コストの増大として、荷主企業にも跳ね返ってきます。物流コストの増大は、商品のコストに反映され、さらなる物価高に拍車をかける可能性すらあり、一般消費者の方にも影響を及ぼすかもしれません。
業界全体で「業務効率化」「業務改善」に取り組むことが急務
これらの問題解決には、運送業者はこれまで以上のトラックドライバー数をそろえ、運送体制を確保する必要がありますが、運送業務自体を見直し、長距離輸送ではなく中継輸送にする、ほかの業者と共同して輸送する、といったことも必要になるでしょう。
このように、運送業者の方は、運送業務自体の効率化や抜本的な見直しを図る必要に迫られています。荷待ち時間、荷受作業、付随する作業を短縮することに加え、残業代をベースにした給与体制であるなら、給与体制自体を見直す必要もあるといえます。
この問題は運送業者だけの問題にとどまりません。運送業者が立ち行かなくなることは、荷主業者が荷物を送れなくなることも意味します。つまり、荷待ち時間、荷受作業、付随する作業を短縮することは、荷主業者の問題にもなり、ひいては一般消費者の問題ともいえるでしょう。
業界では、運送業務の効率化の取り組みも始まっているようですが、まさにいま、運送業者や荷主業者、業界全体が業務の効率化や改善に取り組むことが急務だといえます。
北畑 素延
弁護士法人 山村法律事務所 弁護士
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