医療ミスによる事故や、購入した商品に欠陥があったことによる事故など、身近にはさまざまな事故のリスクが潜んでいます。もしこのような事故に巻き込まれたら、法律上では、どのように対処されるのでしょうか。中央大学法学部教授である遠藤研一郎氏の著書『はじめまして、法学 第2版 身近なのに知らなすぎる「これって法的にどうなの?」』(株式会社ウェッジ)より、身近に起こりうる事故と法律の関係について解説します。

もし購入した製品に問題があったら…

さて、次に製造物事故の世界を覗いてみましょう。

 

私たちは、日頃から、さまざまな物を購入して、生活を成り立たせています。パソコン、自動車、お弁当、洋服、おもちゃなど……。そして、そこにはもはや、「自分自身で作る」という選択肢が、ほぼありません。要は、今の社会では、作り手と受け手が分化しているのです。すなわち、消費者が、みずからリスクをコントロールできないことを意味します。

 

では、その商品に欠陥があって、事故が生じた場合はどうなるのでしょうか。いきなりドライヤーから火が出て火傷をしたり、お昼に食べたお弁当で食中毒になったり、乗っていた車のブレーキがまったく利かずに事故を起こしたり、化粧水を使ったら肌が変色してしまったり……。

 

このような事故は、消費者が避けようと思っても避けることが難しい事故なのです。しかも、消費者という小さな存在が、製造業者という大きな存在を相手に責任追及をしていかなければなりません。それは、ちょうど、ゴリアテに挑むダビデ※2のようです。

 

そんなダビデ(=消費者)の武器になるものが、製造物責任法という法律です。この法律によれば、製造業者が製造した物の「欠陥」によって、生命・身体などに損害が生じた場合には、過失の有無にかかわりなく、製造業者は損害賠償責任を負うというものです(製造物責任法3条※3)。一種の無過失責任といってよいと思います。

 

※2 小さな羊飼いのダビデが屈強な巨人ゴリアテを打ち倒す、『旧約聖書』の有名な決闘の物語。「強者に立ち向かう弱者」の比喩。

 

※3 【製造物責任法3条】製造業者等は、その製造、加工、輸入又は(中略)氏名等の表示をした製造物であって、その引き渡したものの欠陥により他人の生命、身体又は財産を侵害したときは、これによって生じた損害を賠償する責めに任ずる。ただし、その損害が当該製造物についてのみ生じたときは、この限りでない。

「欠陥」のいろいろ

製造物責任法上の「欠陥」には、大きく、製造上の欠陥、設計上の欠陥、指示・警告上の欠陥があります。

 

まず、製造上の欠陥とは、製造物が設計・仕様どおりに作られなかったことによって安全性を欠く場合の欠陥です。製造工程における製品の安全に着目する点に特徴があります。たとえば、異物混入などがこれに該当します。

 

また、設計上の欠陥とは、設計・仕様自体が安全性を欠いている場合を指します。設計を変更しない限り、その設計に従って製造された製造物すべてに欠陥があることになります。これは、製造業者にとっては厄介です。

 

「訴訟※4」という映画があります。主演は、ジーン・ハックマン。自動車事故で家族を失い、自分自身も下半身麻痺となったクライアントのために、市民派弁護士が、最大手の自動車会社アルゴ・モータースを相手に戦いを挑むのです。

 

そしてそこには、企業ぐるみのリコール隠しがあります。日本でも、過去に大手自動車会社の大規模なリコール隠し事件がありました。設計上の欠陥を隠した事例といえます。

 

さらに、指示・警告上の欠陥とは、製造物に残存する事故発生のリスクを防止するのに足りる適切な指示および警告がなされていない場合をいいます。指示・警告とは、たとえば、薬の能書きや、おもちゃの注意書き、タバコの健康被害表示などです。「副作用が出たら直ちに服用を中止してください」、「3歳未満は使用禁止」、「吸いすぎに注意しましょう」。いずれもよく見かけるものですね。

 

※4 1991年公開のアメリカ映画。マイケル・アプテッド監督。敵味方に分かれた父娘の弁護士が争う法廷ドラマ。

 

 

遠藤 研一郎

中央大学法学部

教授

 

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