マイホームを購入した2児の父、仕事もスムーズに昇給し、順風満帆に見えるが…
山本さんは、大学卒業後は大手企業に入社し、粉骨砕身働きます。30歳で結婚し、35歳時には2児の父となっていました。収入も平均よりは多くもらえているようで、30歳のときには結婚を機に念願のマイホームを35年ローンで購入。妻も生活が厳しいわけではありませんでしたが、家庭だけでなく社会と関わりたいという理由からパートに出て手取りで月6万円の収入を得ていました。
山本さんは、入社してから仕事を忙しく過ごしていましたが、結婚や子供の誕生など幸せなイベントも多くあり、気が付けばあっという間に40歳を過ぎていました。いまでは子供にも手がかからなくなってきていることで、自分自身を振り返ることが多くなったように感じると話します。
仕事のプレッシャー増にともない、心も体もすり減っていく
仕事でも重要なポストに就く場面が増え、周りからも頼れる人材として、課長に昇格していました。当然のことながら、その分仕事に対するプレッシャーも格段に増えていきます。連日の拘束時間の長い激務に伴い、コーヒーやエナジードリンク等のカフェインの摂取量も増えました。
「今日は終電で帰れた……」喜びの感覚も世間と少々ずれるように。
このころから胃が痛むことも多くなりました。ある日、突然のみぞおち周辺の激痛と嘔吐の症状で病院に行くと胃潰瘍と診断され、2週間の入院となります。
この入院中、山本さんはひとりで考え込んだ結果、「もう自分は限界なんだ」と痛感し、転職することを決めたと言います。このままいまの会社にいても未来は絶望的に感じたそうです。退院後、妻に相談しました。妻は収入が減る可能性などへの不安もあったようですが、いまの山本さんの思い詰めた様子を見ると、納得してもらうことができました。
心身の健康は守られたが…「40歳の転職」に待ち受ける厳しい現実
山本さんは、大手企業に勤めていたとき、月に手取り50万円をもらっていました。厚生労働省の発表している令和4年の賃金構造基本統計調査では、40~44歳の大企業の賃金は41万1,900円となっています。手取りでは約8割程度の約33万円が平均となるため、山本さんは平均よりも高い収入によって、ゆとりある生活が送れていたことがわかります。
支出は収入に見合う支出をしていたことも自負していたそうで、総務省の「家計調査の家計収支編」で見た年収1,000万円以上の月の消費支出約42万円とほぼ同程度だったようです。山本さんは、いまの収入と支出も把握していたので、収入が下がるような転職はしないとも考えましたが、それまでの職種と同じ会社に転職するとまた同じことを繰り返してしまうという恐れから、年収が下がっても精神面や体力面で無理のない職種を希望していました。
転職先は中小企業に決まりました。これまでのような毎日夜遅くまで働くということはなく、家族と一緒に夕食をとることもできるようになり、精神的にはゆとりが出てきたように見えました。しかし現実は、収入が大きく減ってしまっていたのです。
先ほどと同じ賃金構造基本統計調査でみると、中小企業の賃金は40~44歳では32万6,600円ですが、山本さんは未経験業種への中途採用ということもあり、転職直後は30万円(手取り24万円)でした。収入が少なくなるのは覚悟していましたが、いままでの生活水準からすると、妻の収入を合わせてもまったく足りなくなってしまい、これまでの貯蓄を取り崩さなくてはいけない状態となってしまいました。
これまでの生活水準を急に下げることは難しく、住宅ローンの見直しや節約を心がけましたが、毎月の支出は36万円と収入を上回ってしまいます。
このままでは家計破綻が現実味を帯び、山本さんは再び、今度はお金への不安から絶望を感じるのでした。