高収入の会社員は、収入が多い分、社会保険料も多く支払っているため、公的年金も人より多くもらえるように思えます。しかし、現役時代に余裕があっても、年金に関する正しい知識を持っていなければ、老後を目前に慌てふためくはめになることも……。本記事では、宮内さん(仮名/59歳)の事例とともに日本の年金制度について、FP事務所MoneySmith代表の吉野裕一氏が解説します。
月収75万円の59歳エリートサラリーマン、退職金2,000万円で“勝ち逃げ”のはずが…一度捨てた〈ねんきん定期便〉をゴミ箱から拾って、驚愕「さすがに何かの間違いでは?」【FPが解説】 (※写真はイメージです/PIXTA)

高年収で退職金見込み額も十分、しかしもらえる年金額は…

50代のときに年収1,200万円だった宮内(仮名)さんは、妻と長男と長女の4人家族でした。妻は専業主婦で自分の好きな絵画教室へ通っていました。子ども2人も学習塾や習い事などに通い、周りからも羨ましがられる生活を送っていました。

 

宮内さんは収入も多く、退職金は2,000万円が見込まれているので、老後の生活費について気にすることもなく、貯蓄はほぼしていませんでした。自分のいまの年収があれば、公的年金も老後の生活費に充分に賄えるだろうと考えていたと振り返っています。

 

月の手取りは60万円、ボーナスは年間で300万円でした。持ち家ではなく、賃貸だと引っ越しが自由で、都心でも郊外でも暮らしやすいという考えから、家賃18万円の賃貸マンションに住み、外食も多かったようで、毎月の収入やボーナスはほぼ使っていたそうです。

 

毎年送られてくるねんきん定期便のはがきも、気にすることなくすぐにゴミ箱に捨ててしまい、50歳以降のねんきん定期便に記載されている年金の見込み額も見ることはありませんでした。

 

いよいよ60歳も目前の59歳のときに送られてくるねんきん定期便は封書で届いてきていました。例年のように一度はゴミ箱に捨てるも、いつもと形態が違ったこともあり、思い直して拾い上げ、封書を開けてみました。そこで、ねんきん定期便に記載されている年金見込み額を見て「いやいや、さすがに何かの間違いでは?」と冷や汗をかきます。

年金保険料には上限があることに注意

老齢年金は、基礎部分の老齢基礎年金と会社員などの人が加入する厚生年金の老齢厚生年金の2階建てとなっています。老齢基礎年金は令和5年度の満額で、79万5,000円となります。

 

老齢厚生年金は、加入期間の収入に応じて受け取る額が変わってきます。宮内さんは、50代となってから年収が増えましたが、全期間で見た平均では年収650万円でした。

 

前述のとおり、宮内さんは年収1,200万円、毎月の給与は75万円(手取り60万円)、ボーナスは、夏と冬に150万円ずつの300万円でした。

 

厚生年金保険料は、毎月の報酬に対しては65万円、ボーナスについては150万円という上限があり、50代になって75万円をもらっていた時期の年金の計算される額は65万円で計算されることになるのです。

 

年収1,200万円だと月額報酬は100万円になると思われてしまいそうですが、年金の計算では、ボーナスの300万円と月額の上限65万円の年額780万円を足した1,080万円がもととなるのです。

 

また、厚生老齢年金は加入期間の平均になりますので、新入社員当時は給与も少なく払っている年金保険料も少なくなることで、総期間における平均年収は低くなってしまいます。

 

年金額は物価の上昇率よりも低い

さらに現在の日本の年金制度は、物価スライド方式という物価の変動に応じて年金額が変動する方式ではなく、マクロ経済スライドという方式が採られています。

 

マクロ経済スライド方式とは、物価や賃金の変動に応じて年金額を変動させたあと、年金加入者数や平均寿命の延びを加味した調整を行うという制度となっていることで、物価の上昇率よりも年金額のほうが低くなるような仕組みです。

 

つまり、年金額自体は増えるものの、物価の上昇よりも低いことで、実質の年金額は目減りすることになります。