(※写真はイメージです/PIXTA)

企業で必死に働くサラリーマンと、家庭を守る専業主婦。定年退職後は2人仲よく…と夫がワクワク考えている一方、妻の胸の内はまた違っているかもしれない。ある夫婦の例からシニア世代のおサイフ事情、結婚事情を読み解いていく。

大企業に40年勤務の会社員…退職金は2,000万円超が一般的か

人事院の『令和3年度民間企業退職給付調査』によれば、定年退職金は大企業(従業員1,000人以上)勤続20年で792.6万円、勤続30年で1,628.8万円、勤続40年で2,302.3万円となっている。この退職金は、サラリーマンの老後生活を支える資金として、大きな役割を果たすことになる。

 

退職金は、従業員が会社を退職するときに支払う賃金であり、企業規模や勤続年数で大きく変動する。退職金制度を持たない企業も約2割あるが、大企業ほど制度が整備されているようだ。

 

退職金制度は、各企業によって支給条件に違いがあるため、自分の勤務先がどのような制度を導入しているか、しっかり認し、正しく理解してくことが重要だといえる。

 

◆企業規模・勤続年数別「定年退職金」

 

★従業員1,000人以上

勤続20年:792.6万円

勤続30年:1,628.8万円

勤続40年:2,302.3万円

勤続45年:2,828.7万円

 

★従業員500~999人

勤続20年:724.9万円

勤続30年:1,330.6万円

勤続40年:1,745.9万円

勤続45年:2,866.7万円

 

★従業員100~499人

勤続20年:570.8万円

勤続30年:1,250.3万円

勤続40年:1,708.5万円

勤続45年:1,909.2万円

 

★従業員50~99人

勤続20年:422.0万円

勤続30年:1,079.2万円

勤続40年:1,428.8万円

勤続45年:1,184.9万円

 

なかには退職金制度がない企業もあり、最初は納得して入社した従業員も、ほかの会社の従業員の話を聞くうちに不満が頭をもたげてくるというのもよくあることだ。しかし、トータルで見た場合、その分毎月の給与が高額になっているなどの調整がされていることも多いため、「退職金がない=待遇が悪い」とは必ずしもいい切れない。いろいろな要素を考慮したうえで、評価することが重要だ。

「あなたも肩の荷が下りたわよね? 私たち…」「ええっ!?」

60代の元会社員の山本さん(仮名)は、自身の定年退職の日を「夢を見ているようだった」と振り返る。

 

「私は単身赴任の期間がかなりあり、家庭では不在がちでした。しかし妻は、二言目には〈大丈夫よ〉といって、すべてを支えてくれたのです。子ども2人を無事に育ててくれたのも、高齢の母を介護してくれたのも妻でした」

 

定年退職の日、山本さんは職場でもらった花束と、途中、自分で予約していた人気店のケーキを手に自宅へ戻った。

 

妻は山本さんをにこやかに迎え、手際よく花瓶に花を活けた。リビングに入ると、珍しく子ども2人が顔をそろえ、豪華な夕食まで準備されている。山本さんは思わず涙が込み上げてきた。

 

久しぶりの家族水入らずで食事を楽しみ、子どもたちを送り出したあと、妻は山本さんにはじける笑顔で切り出した。

 

「あなたも定年になって、肩の荷が下りたわよね。私たち〈卒婚〉しましょ?」

「ええっ!?」

 

「卒婚」とは婚姻関係を維持したまま夫婦それぞれが自由に暮らす、新しい生活スタイルのことだ。離婚すれば生活費ももらえなくなり、相続権も失うが、卒婚なら生活費をもらいつつ、万が一のときにはまた、2人の生活に戻ることができる。

増加する熟年離婚だが、高齢女性の生活費には懸念点

世間では、婚姻期間が20年以上の夫婦の「熟年離婚」が増えており、2021年では3万8,968件にのぼる。離婚件数が18万4,386組であることから考えると、実に離婚する5組に1組以上が、熟年離婚だ。

 

熟年離婚に至る理由のひとつに高齢化があると指摘する専門家もいる。仮に60歳で定年退職した場合、平均寿命から考えるとその後、20年以上も結婚生活が続く。これまでも子育て介護を丸投げされて大変だったのに、今度は年老いた夫につきっきりだなんて、とんでもない、ということだろう。

 

そこで「離婚」の二文字が胸をよぎるわけだが、妻には老後の生活資金という不安がのしかかる。専業主婦の場合、65歳からもらえる年金は満額で月6.6万円。会社員の夫は、自身の国民年金(老齢基礎年金)に加え、厚生年金(老齢厚生年金)がもらえる。厚生労働省の調査によると、65歳以上の平均は17万円ほどで、専業主婦の妻と合わせると夫婦で23万円程度だ。

 

もし離婚になった場合、婚姻期間中の厚生年金記録(保険料の納付実績)を離婚時に夫婦で分け合う「離婚時の年金分割」という制度がある。実際に年金分割をしている人の割合だが、婚姻件数に対して15%程度で、もしそのすべてが熟年離婚なら、7割程度が年金分割制度を利用している計算になる。

 

では、どの程度増額できるのかという話だが、厚生労働省の調査では平均3万円程度。国民年金が満額支給だとしても、専業主婦だった妻が手にできる年金は月9万~10万円程にしかならない。ひとり老後生活を送るのは、心もとない金額だ。

置き去りにされた夫「そのうち帰ってくるかな…」と涙

「妻は、年金受給額などを周到に計算したうえで、離婚では生活できないから〈卒婚〉を提案したのですよ。子どもたちもすっかり妻の味方で、いまは自分の姉妹のところや、子どもたちのところを行き来して、楽しく暮らしているようです…」

 

山本さんは「卒婚もイヤだが、離婚はぜひとも回避したい」とうつむく。

 

「そのうちまた帰ってくるかなぁ、と思って…」

 

山本さんの目に、小さく光る涙。いまは頑張って料理を覚えているとのこと。新しい夫婦の関係に、幸せを見出すことはできるのか。

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