高齢者の住まいの選択肢として、増加傾向にある「老人ホーム」。ただ一度、選んだらそれでひと安心というわけではなく、やむを得ず退去、というケースも。この時にとんでもない事態に巻き込まれるケースも。みていきましょう。
年金月11万円・75歳の高齢女性…入居費用1,000万円の「老人ホーム」で遭遇する大事件「何かの間違いでは?」 (※写真はイメージです/PIXTA)

「老人ホーム」は入居したら終わりとは限らない

厚生労働省の調査によると、厚生年金受給者の平均年金受取額は、併給の国民年金と合わせて、65歳以上男性で17万円、女性で11万円。手取りにすると、男性で14万~15万円、女性で10万円といったところでしょうか。老人ホームからの毎月の請求、年金で足りない分は貯蓄でまかなうというのがスタンダードです。

 

しかし老人ホーム、入居したら終わりというわけではありません。賃貸住宅と同じで、住んでみたら「ちょっと違った」ということも珍しくありません。違和感も1日くらいなら目をつぶることができますが、それが毎日となると厳しいもの。「食事が好みに合わない」「入居者と気が合わない」「嫌いなスタッフがいる」「隣に住む人の声が気になる」など。耐えきれず、「退去」→「再び、老人ホーム探し」というケースは、意外と多いようです。

 

そこで知っておきたいのが、退去時にかかるお金です。基本的に考え方は賃貸住宅と同じで、退去後に修繕費の請求がある場合も。基準は賃貸住宅とほぼ同じで、経年による劣化などでは請求はされません。普通に暮らしていれば、驚くような金額を請求されることはほぼないでしょう。問題は入居一時金。たいてい初期償却率が設定されていますが、これは入会金のようなもの。クーリングオフ期間を過ぎ退去となった場合でも戻ってこないお金です。

 

たとえば、75歳のお一人さまの女性。終の棲家として、入居一時金が1,000万円、初期償却率20%の老人ホームに入居を決めたとします。しかし「ちょっと違う」という違和感から、クーリングオフ期間後すぐではありましたが、退去を決めたとしましょう。そこで戻ってくるのは、1,000万円ではなく、800万円程度、ということ。さらに償却5年とあれば、1年間で160万円、1ヵ月で13万円ほどが償却されたとして、減額されて戻ってきます。

 

ーー最終的に選んだ自分が悪いんだから、仕方がないわ

 

そう納得しての退去。しかし、一時金がまったく戻ってこないケースもあります。法律では、入居一時金の保全措置が、老人福祉法第29条第9項で定められています。つまり「一時金はちゃんと保全しておくように」と法律で決められ、急な退去となったとしても、きちんと然るべき金額が返金されるというわけです。しかし、厚生労働省による2020年度の調査では、対象2,268の有料老人ホームのうち、前払金の保全措置を講じていない施設が41件あったと報告されています。