▼帰り道の街道
老練工房「あははは! まさか恋と鯉を取り違えるとはな!」
女騎士「めんぼくない……」
老練工房「姉ちゃんがウブだってことは分かったよ」
女騎士「物心ついたときには剣を握っていた。同年輩の娘たちが色恋沙汰に目覚めるころには、魔国との戦争に身を投じていたのだ……」
老練工房「ともかく、お姉ちゃんと出会えてよかったよ。帝都の銀行のやつらにカモにされずに済んだし……俺も簿記を勉強してみようかねえ」
女騎士「私など、まだ会計の初心者にすぎん」
老練工房「ははは、謙遜しなさんな。……さてと、今日の夕方には港町に到着できそうだ」
女騎士「思ったより日にちが経ってしまったな。銀行家さんの『注文の品』の完成に、結局、2週間もかかるとは」
老練工房「やけに日にちを気にしているが、月末に何かあるのか? 銀行家さんからプロポーズを受けるわけではないのだろう?」
女騎士「もちろんだ! ただの私事だ。……何にせよ、ぎりぎり月末に間に合ってよかった」
老練工房「ふうむ、そろそろ港町が見えてくるはずだぞ」
女騎士「……ん? なんだ、あの煙は?」
老練工房「煙が上がっているのは……町外れの牧草地帯だな」
女騎士「牧草地帯」
人夫「あの辺りはミノタウロスの牧場ですよ」
女騎士「!?」
町人「おーい! おーい! 手の空いている男は武器を持って牧場に急げ!」
女騎士「待て! 牧場で何があったんだ!?」
町人「何って……決まってんだろ! ミノタウロスが暴れているんだ! もう3日になるが、まだ収拾がつかねえ!」
老練工房「はあ~、ミノを扱っている肉屋は大変だろうなあ…」
女騎士「!!」ガタッ
カチャカチャ……
老練工房「お、おい! 姉ちゃん、どうしたんだ?」
女騎士「すまない、馬車馬を1頭借りるぞ!」
老練工房「えっ! そんな慌てて──」
人夫「その馬の持ち主は王立商会です! 許可なく貸すわけには……って、ちょっと待ってくださいよぉ!」
女騎士「はあっ!」ペシーン!
ヒヒーンッ
パカラッパカラッ
女騎士「何事もない、よな……?」
▼中央市場
ワイワイ……ガヤガヤ……
女騎士「くそっ! 通してくれ!」
女騎士「邪魔だ! どいてくれ!」
ワイワイ……ガヤガヤ……
女騎士「肉屋は、あの角を曲がったところだ……」
女騎士「……頼む、何事もなく営業していてくれ」
女騎士「どうかダークエルフが成功していてくれ……!!」